第12章「げんそう」 7-8 ここも通行止め
「我らは、どちらにせよ陛下の崩御とともに御役御免。ここいらが、潮時かと……」
「左様か」
イリューリが亡くなっても泣かなかったドセーフリィの両目から、ドッと涙があふれた。
それをぬぐいながら、ドセーフリィ、
「降伏する。親王殿下に、陛下と王冠を御渡しする準備をせよ」
副団長のレーンスキィルを含む配下にそう命じた。
そうは云っても、末端まで状況や命令が伝われまでには時間がかかる。
クリャシャーブ邸襲撃部隊からアーリャンカ姫捜索の別動隊が出て、玄関はピオラに追い返されたが、城内から客室棟に迫っていた部隊は、特段の抵抗もなく、電車道であった。
「あのデカブツめ、さすがに城内には入ってこれんとみゆる!」
1人の親王家の騎士が20人ほどの配下の兵士を連れて、客室棟に迫っていた。
回廊や通路を通り、少し高台にある客室棟に通じる階段を上って、冷え冷えとしたロビーに出た。兵士を見やった何人かの使用人が、悲鳴を上げて通路や階段の奥に逃げた。
兵士が追おうとしたが、
「放っておけ! あきらかに、王子家の人間ではない」
騎士が慎重にロビーから人のいる棟を確認し、表玄関のすぐ近くの部屋の前に使用人や女給が立っているのを見やった。
女給が騎士を見て悲鳴を上げたが、逃げるところがなく、ドアを叩いて何やら叫び、ドアが開いて部屋の中に転がり逃げた。
「見つけたぞ」
騎士が右手を上げ、兵士らが集合する。そのまま向かおうとした、その時……。
「?」
1人のローブマント姿の少年が、いつの間にやら騎士らの前で通路を塞ぐように立っていた。
「……なんだ、どこから出てきた?」
「ここは通行止めです。他をどうぞ」
「なに?」
その中性的な顔立ちと声変わり前の高い声に、
(……アーリャンカ姫……か?)
と騎士は思ったが、髪も短いし、ローブマントの下に着ている衣服も王族のそれには見えなかったので、無視して少年を避けようとしたが、少年が一定の距離を取り、フワフワした不思議な動きで執拗に騎士の前に立ち塞がった。
騎士がムカついて、
「どこのガキだ! ふざけていると、ケガをするぞ!」
脅しつけようと、凄みながら抜き身の剣を向けた。
「通行止めだと云っている。親王家の騎士は、通行止めの意味も分からんのか?」
いきなり少年が薄ら笑いをうかべて騎士を上目にそう云ったものだから、流石の騎士もカチンときて、
「ガキと云えど、侮辱は許さんぞ!」
剣を持ったままの右手で、少年を殴りつけた。
いきなり、騎士のその右腕が腕当ての装甲や鎖帷子ごと、見えない力にねじり上げられて、丸めた紙のようにひしゃげた。
騎士が剣を落として絶叫をあげ、膝から崩れた。
その声に、兵士らが、びっくりして立ちすくむ。
少年は、リースヴィルであった。
ムーサルクに倒されたリースヴィルとは、記憶や経験を共有していない別個体だ。
仮にルートヴァンの造った魔力のアンドロイドと定義すると、リースヴィル2号ということになる。
強力な念力の魔術で、騎士の腕を軽くひねったのだ。
「もう一度云う。通行止めだ」
ニヤニヤするリースヴィルの両目が魔力を映して青白く光り、苦悶にうめく騎士も震え上がった。
「き、きさまは……!」
「次は、首をねじるぞ」
「ヒィ……!」
兵士らが、もう武器を打ち捨てて転がるように逃げ出した。
「レクサーン親王に伝えよ。アーリャンカ姫は、縁あって異次元魔王様が預かった。引き渡してほしければ、エルンスト大公を通じよ」
「な……なんと……!!」
「行け」
「ハッ……」
脂汗を流して騎士が何とか立ち上がり、礼をすると、ねじれた右腕を左手で支えながら、フラフラと城に戻った。
同時刻……。
城の地下深くの広間に、ストラがいた。
特段の迷宮ではないが、地下50メートルにもなり、途中で何度も厳重な鉄や石の扉、封印に護られていた。




