第12章「げんそう」 7-3 急襲
王宮正門警護の兵士はちょうど朝の交代の時間で、18人ずつ36人の兵士が交代の儀式を行っていたが、
「……な、なんだあ!?」
地響きのような異様な音に気付き、警護隊長が確認のため都内に向かって走り出そうとしたとき、先陣を務める宮家騎士団が騎馬に長槍装備で通りを疾駆してきたものだから、慌てふためいて両手を上げ、
「とッ、止まれえええええ!!!! どこの軍勢だ!!!! 止ま……」
もう、長槍に胸元を貫かれ、血をぶちまけて冷たい地面に転がった。
「うわあっ……!」
戸惑っていた警護兵らは動揺、混乱し、10人ほどの騎士らはそんな成す術もない兵士らを瞬く間に皆殺しにした。
「門を開けよ!」
騎士団付随の兵らが正門の警護所に群がって扉を破壊、中の係の者を脅しつけて門を開けさせる。係員らも呆然としていたが、
「とっととしろ!」
「死にたいのか!」
慌てふためいて、何人かが正門の大きな閂を外して、1人が天井の孔からぶら下がっている太い鎖を引き、滑車を回して開閉機構を作動させた。
分厚く巨大な木板と鉄板で構成された巨大な両開き門が、ロープと鎖でつながれた柱が回って、自動ドアめいてゆっくりと開いた。
「第1、第2隊はマルフレード邸へ! 宗家の血筋は皆殺しにしろ! 第3、第4隊はクリャシャーブ邸へ向かえ! 同じく皆殺しだ! 第5、第6隊は王宮へ向かい、王の遺骸を奪取する! 王冠と宝珠は、我らが護るのだ!!」
月の塔家騎士団長のヴェデルラーエルが剣を抜いてそう叫び、川の流れのように騎士と兵士らが動く。城塞や高い石垣塀、土盛りに囲まれたチィコーザ王宮は、我々の皇居ほどの広さがあり、森林や泉のほか、第1、第2騎士とその兵団の本部や宿舎、現在では王子家の邸宅や同じくその王子家騎士団、兵団の本部施設及び宿舎、使用人らの宿舎や小店も立ち並び、昼間人口は3万人に及ぶ、1つの町のようなものだった。そこを、常から登城の際に位置を確認していた月の塔家騎士団が整然と兵を率いて駆け抜ける。
「何事か!! 都どもは、何をやっている!!」
都とは、王都の警護と治安維持を担う第3騎士団通称「都隊」のことだった。
第3騎士団にしても、まさか権威あるイリューリ王の治世化で宮家の兵が王宮に殺到するのは完全に想定外で、この事態をまだ知らない可能性すらあった。
王宮警護の第2騎士団通称「白百合隊」にとっても、奇襲も奇襲、大奇襲だった。何の報告も兆候もなかったのだし、密かに知らされていた王の危篤とマルフレードやアーレンス公の死に、完全に混乱して浮足立っていた。
「どこのバカ者どもだ!!」
当直の白百合隊騎士が喚き散らし、偵察に出かけて戻ってきた騎士団付属の兵士が泣き叫ぶように、
「つっ……月の塔家の旗で御座ります!!」
「月の……塔家……だって……!?」
その騎士は、すべてを悟った。そして、
「……我らが王より与えられた使命は、王宮の警護だ!! 王宮警護に徹しろ!! それ以外は、手出し無用!! ただし、王宮を破壊するようであれば、死を賭して戦え!!」
そう、厳命した。
月の塔家の軍勢も、それは百も承知であった。端から第2・第3騎士団は味方にしたいと思っていたし、王都や王宮、無抵抗の者たちには絶対に危害を加えないように兵士らに命じていた。
マルフレード家では王子につき従った王子家の騎士団と主力軍が壊滅しており、50人ほどの衛兵しかおらず、まして当主の王子が戦士したうえに王まで崩御したとあって、深夜半から蜂の巣をつついたような騒ぎであったのに、いきなり広い王宮敷地内を駆けてきた騎兵と兵士らが邸を取り囲み、いっせいに矢を射かけたので混乱の極みに達した。
ちなみに、王子家の邸宅は「王宮ではない」ので、第2騎士団も動かない。
「ははっは、叛乱か!?」
「どこの軍勢か!!」
「まさか……殿下が負けたせいで……陛下が、軍を……!?」
などとマルフレード家の者たちは考え、疑心暗鬼になっていたが、月の塔家の旗を見やり、動揺すると同時に烈火のごとく怒りはじめた。
「叛乱だぞ!!」
顔を真っ赤にして、スヴャーベル王子が喚き散らした。
「白百合や都は、どうなっている!!」
「殿下、そんなことより、御逃げに!!」
「兵が足りませぬ!!」




