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第12章「げんそう」 7-1 変貌っぷり

 「重臣ども、しばらく隠しておくみたい」

 「でしょうね!」


 「でも……私は、早く次の王を定めたほうがいいと思うけどね。内々にでもね。もう、偽ムーサルクが攻めてくるっていうのだから」


 「第3王子か、第1王子の息子か……王の遺言が無いのだから、揉めるでしょう」


 「揉めるね! 特に、第1王子と第3王子は仲が悪かったみたいだし、重臣たちには決められないだろうね!」


 「どうするんだろう?」

 「知らないよ! 私たちには関係ないだろ?」

 「それもそうだ」

 フローゼが肩をすくめた。

 「ちょっと、またあちこち見てくるよ」

 云うが、オネランノタルが再び姿を消した。

 「気をつけてよ、朝までには戻ってきて!」


 「分かってるよ、フシュシュシュッーッ、イィイーーッッヒヒッヒヒヒヒヒ……!」


 その薄気味悪い笑い声だけ聞いたならば、一般人なら気絶しそうなほどだった。

 「……あいつ、いつになったら元の姿に戻るんだろ?」



 7


 翌朝、暗いうちに起きだしたルートヴァンは控えの間付の従者に命じ、暖炉に薪をくべさせて部屋を暖かくすると、ついでに顔を洗う洗面用具や湯、簡易な朝食を用意させ、全て終えると、椅子に座ってジッとルートヴァンを見つめていたフローゼにようやく声をかけた。


 「オネランノタル殿は?」

 「さあ。朝までには戻るように云ったけど……」

 「私はここだよ」


 天井に張り付いていたオネンランノタル、まさに魔物めいてテーブルの上に飛び乗った。


 「あきれた! いい加減にしなさいよ! 行儀の悪い!」

 「魔族に、人間の行儀なんか関係ないね!」


 そう云ってから、カタカタと爪を鳴らして食後の紅茶を飲むルートヴァンに向き直り、


 「大公、王が死んだ、重臣たちは隠しているけど、それぞれの王子邸には密かに伝わっているみたいだ。第1王子の死もね! 第1王子の子の上のほうは、王に死に顔に会わせろと朝から家のものを怒鳴りこませてる。自分がもう王のつもりだよ。重臣らは拒んでいるがね。第3王子は、何か企んでいるようだけど……」


 「月の塔家が、先に動きましょう」

 「その通りだよ! 既に、兵が用意されている。偽ムーサルクの手配だろうね」

 「え? まさか、王城に奇襲を?」

 フローゼが声を高くした。


 「騎士団もいるでしょうに、いったい、こんな街中で何人の兵を集めたんだろう? 宮家の王都邸とはいえ、100や200程度じゃないの? そんなので、王宮騎士団を相手に?」


 「そっちは関係ない。好きにさせよう。僕らは、もうムーサルクに向けて出発しなくては」


 「プランタンタン達は? 襲撃があったら、危険じゃ?」

 「そのために、ピオラを置いていくんだろう?」

 ルートヴァンに云われ、フローゼが秒で納得した。


 「既に、ピオラとフューヴァには情勢を伝えてきたよ。大丈夫だろうさ。フューヴァならね!」


 オネランノタルの言葉に、ルートヴァンが謝意を示した。


 「かたじけなく。そう、フューちゃんなら……うまくピオラを使い、プランちゃんやペーちゃんを護るでしょう。さ、では……参りましょうか」


 ルートヴァンが席を立ち、フローゼも続いた。

 そこで思い出したように、

 「ストラさんは?」

 「もちろん、聖下も共……に……」

 そこで、ストラがいないことに気づいた。

 「あれ、聖下、聖下!?」

 「さっきまではいたよ、ホントだよ!」


 オネランノタルも慌てて、カタカタと爪を立てて回りながら四ツ目を動かした。


 「ルーテルさん」

 ルートヴァンのすぐ後ろから声がし、ルートヴァンが飛びあがった。

 「ちょっと、先に行っていてください。確認したいことがあります」

 「え……あ、ハハッ!! 仰せのままに!!」

 ルートヴァンが深く礼をしてそう云ったが、フローゼが、

 「こんな時に、何を確認するんですか?」


 当たり前の質問だったが、ルートヴァンが目を吊り上げて怒鳴り声をあげた。


 「バ……バカ者が!! 貴様!! 聖下の大御心おおみこころに、畏れ多くも疑義を唱えるつもりか!!」


 その変貌っぷりにフローゼが驚いて、

 「ちょ……っと、なにを云ってるの!? 聴いただけじゃない!」

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