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第12章「げんそう」 6-14 闇の圧

 「やはり、こっちで合っていた」

 「う……」

 ホーランコルが、ムーサルクを睨みつけた

 「異次元魔王は、来るのか?」


 その言葉は、マンシューアル藩王国のさらに奥にあるラグェル藩王国のさらに南方、もはや帝国の外である南部大陸の奥地ガナン地方の広域部族語……すなわち、キレットとネルベェーンの故郷の言葉であったが、さすがに2人ともチラッとムーサルクを見やっただけで動揺も何もなく、完全に、


 「?」

 と、いう顔で受け流した。

 だが、既に呪いが発動していた。

 気が付けば3人……いや、ムーサルクを含めて4人は闇に飲まれていた。

 結界に囚われたのだ。

 「しま……!」

 「ホーランコルさん、逃げてください!」


 キレットが叫んだが、遅かった。数十センチから1メートルはあろう無数の巨大な毒蟲が闇に蠢いて、ホーランコルの手足やキレット・ネルベェーンらを糸だかなんだか分からぬ強靭な繊維状のものでがんじがらめにし、さらには闇が圧迫して3人の呼吸を押さえた。


 「ク、クソ……ッ……!!」

 闇に、ムーサルクの両目が蛍光のピンクに光った。

 「異次元魔王が、いつ攻めてくるかだけ教えろ」

 「な、何のことだ……!!」

 ホーランコルが、苦悶の表情から声を絞り出した。


 「貴様らが、このところ帝国を騒がす新魔王の従者だというのは、感づいていた」


 「下っ端すぎて、分からんわ!」


 「こやつら・・・・に、生きたまま脳を吸わせてもよいのだぞ……どうせ死ぬなら、楽なほうがよかろうに」


 「舐めるなよ……貴様こそ、我らを泳がせておいたこと、後悔するぞ……!」

 「フ……我とて、それほどヒマでも器用でもないのでな……」

 「何を……!?」


 「だが、そろそろ我が使命の障害にならんとしてきているだろう。そうなれば、話が違うでなあ」


 ムーサルクが、闇に耳まで裂けるような笑みを浮かべた。

 その三日月形の大口ですら、ピンクに光った。

 「バケ……モノめ!! 正体を……現さんか……!」


 云いつつ、キレットが魔力を集中し、なんとか結界に隙間を作ろうとした。結界さえ抜けてしまえば、こちらも待機させている魔獣を呼べる。いや、もうすでに近くまで来ているはずだった。


 「正体とは、なんのことだ?」

 ムーサルクが、キレットにそのピンク色の視線を突き刺した。


 「きっ、貴様、ヴィーキュラーガナンダレ密林エルフの、巫女戦士であろう……!」


 「フシュッ、クシュシュ……そこまで分かっていたとは、さすが魔王の従者だ」


 その声は、ムーサルクのものではなかった。若い女性の、メゾソプラノほどの端整な声だった。未知のエルフ語なのであろうが、脳に直接響いた。


 「だが、そんなことが分かったとて、貴様らが死ぬには変わらんぞ!」

 闇の圧が高まり、魔物どもがザワザワと3人に近づいた。


 まるで深海に引きずりこまれたような魔力圧が全身にかかり、3人はたちまち意識混濁する。


 (御聖女ストラ様……殿下……無念……!!)

 ホーランコルは、薄れる意識の中で、懸命にストラの顔を思い浮かべた。

 と、その時。

 その分厚い闇をバッサリと切り裂いて、何者かが結界に侵入した。

 「!?」

 驚いたのは、未だムーサルク青年の姿をした、謎のエルフの巫女戦士だ。

 こうも易々と結界を切り裂かれたのは、初めてだった。


 まさか、もう異次元魔王の手の者が来たかと思い、すかさず魔力を高めた。が、南部大陸の魔術の核心である「呪術」は、持続性や広範囲性、無差別性に優れるが、帝国各流派の魔法術と異なり、こういう時の即応性に欠ける。


 もう、結界はズダズダに分解され、魔物どもは闇の奥に消え去り、3人は解放された。


 (で、殿下か……!?)


 かすむ目で人物を見やり、ホーランコルやキレットはそう思ったが、そこにいたの少年……リースヴィルだった。


 「貴様、ただの使者ではないと思ったが!」

 ムーサルクが、鬼みたいな形相で迫った。

 「今のうちに、逃げて!」

 リースヴィル少年が、ムーサルクに光の塊を叩きつけ、3人へ向かって叫んだ。

 「で、ですが!」

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