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第12章「げんそう」 6-11 何の能もねえ

 と、赤い眉をひそめた。ルートヴァンがニヤっと笑って、


 「この国では、そのしきたり・・・・を逆手に取った、宮家同士の叛乱や下剋上は日常茶飯事でね……中身は魔王案件だったとはいえ、今回の偽ムーサルク事件もそうだし、そもそも今の宗家だって、むかし当時の宗家を騙し討ちにしたようなものだ」


 「だから、どういうことだよ!?」


 フューヴァがイラついて、ルートヴァンを誰何すいかした。代わりにフローゼが片手で肩をすくめながら、


 「偽ムーサルクに通じてる連中が、王都で兵をあげるかも……ってこと!」

 「御明察だね!」

 フローゼの答えに、見えないオネランノタルがそう声をあげた。

 「お前に褒められても、嬉しくないっつうの!」

 フローゼが血相を変え、そう云って舌を出した。

 笑いながらルートヴァン、


 「ま、そういうわけだ。あくまで、可能性だけどね。王宮に騎士団は残っているし、軍団だってある。片や、兵をあげるほうは、王都にどれくらい兵力を密かに集められたのか? まともに考えれば、現実的ではない。でも……可能性はある。万が一、王都で謀反が起きたとき、防衛軍を率いるのは第3王子だろうし……勝てない勝負じゃないと思うよ」


 「なるほどなあ」

 フューヴァが素直に感心し、神妙な顔つきでうなずいた。

 「じゃあ、ピオラといっしょに、おとなしくしてるぜ」

 「2人を頼んだよ、フューちゃん」

 ルートヴァンに云われ、フューヴァが鼻息も荒く、


 「なあに、アタシも含めてプランタンタンもペートリューも、何の能もねえのにここまでストラさんにくっついて生き残ってきたんだぜ。ピオラがいりゃあ、何の心配もねえよ」


 (フフ……能はあるよ、3人とも……僕らには、絶対に持ちえない能力がね)


 ルートヴァンはそう思いつつも、控えの間のドア向こうに待機している王宮の使用人に向かって、


 「おい、だれか、だれかある!」

 「ハッ!」

 すぐにドアを開けて使用人が現れるや礼をし、直立不動となった。

 「この3人に、王宮内に部屋を与えてくれ」


 この場合の「部屋を与える」とは、食客身分で身支度や食事を含む「世話をする」という意味だ。


 「畏まりまして御座りまする」


 「外にいる未知のトロールは、我らの仲間だ。害はないと王宮警護に伝えておけ」


 「はい」

 「我らは、この控えの間をあと少し使わせてもらう。内務卿の許可がある」

 「畏まりまして御座りまする」

 「じゃ、3人とも、休みながらも、充分に気をつけて」 

 「ああ、ルーテルさんがたもな」

 云いつつ、フューヴァ、

 「おらペートリュー、起きろよ! 部屋で寝ろや!」

 「あふんあふん……ふぇふぇ……」


 ペートリューは寝ているのか酔っているのか分からない半覚醒状態で、フラフラしながら椅子から立った。


 フューヴァが、苦笑しながらペートリューに肩を貸してやる。

 「クソ……チィコーザの酒が、またうめえんだよな」

 「行くでやんすよ」

 3人が、使用人について控えの間から出て行った。

 それを見送り、

 「……で、私たちは、どうするの? もう出発する?」

 フローゼがルートヴァンに云う。


 「まあ待て、まずはキレットと連絡を取り……それから、僕は少し休ませてもらうよ。聖下を含めてお前やオネランノタル殿は寝なくても平気だろうが、僕は違うからね」


 「こんなところで寝るの? 貴方も、部屋を貸してもらったら?」

 「なに、ここで充分さ……どれ」

 ルートヴァンが、白木の杖を軽く振り、連絡用の小竜の準備を始めた。

 ストラは、腕を組んで明後日の方角を凝視している。

 その視線の先には、はるか東方のシャスターの街があった。



 時間は、少し……半日ほど戻る。


 イリューリ王が倒れ、王宮からストラの元へ緊急電の連絡魔法がすっ飛んで行ったころ。


 宮廷魔術師長自らが魔術で白鷹を用意し、飛ばしたのだが、なんと、30人ほどいる宮廷魔術師の1人が既に偽ムーサルクの手の者であった。


 その人物は月の塔家の出身で、つまり、分家の分家のさらに分家程度ではあるが、れっきとしたチィカール家の末裔だった。もっとも、姓はとっくにチィカールではないが。

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