第12章「げんそう」 6-10 魔法という御褒美
「おそらくな……しかし、まずは、偽ムーサルクに対応しなくてはならん」
「そうね」
控えの間では、プランタンタン達が暖炉にあたりながらストラやルートヴァンを待っていた。
もっとも、ペートリューはここでも酒浸りで、テーブルに突っ伏して鼾をかいていた。
「あ、旦那方、王様はいかがでやんした?」
うす暗い部屋に戻ってきたストラやルートヴァンに、プランタンタンが声をかけた。
「ああ、スーちゃんのおかげで話は少し聞けたが……もう助かるまい」
「え? 病気だったのかよ?」
フューヴァが、眉を上げて驚いた。
「ああ、それで急いで僕らを呼んだようだよ」
「そうでやんすか……」
「で? どうすんだよ? 魔王が相手なら、ストラさんが出るのか?」
フューヴァは、厳しい表情をルートヴァンに向けた。ストラが出る以上、はっきり云ってチィコーザ王国はもうおしまいだ。
暖炉の火に影を作るフューヴァの顔を見て、ルートヴァン、
「相手は魔王本人じゃない……スーちゃんには、僕たちの仕事を後ろで御観戦になっていただく。だけど、もし、偽ムーサルクに魔王が助太刀したら……おそらく、スーちゃんも前に出るだろう」
「その時は……ってことか」
フューヴァが、影の表情を少しだけ哀れみに彩った。フランベルツでギュムンデが滅亡した時はむしろせいせいしたものだが、あれから約半年……ここまでストラと魔王の戦いで国が亡び、人が死ぬのを見ていると、同情もする。
「それが、僕たちの生きる世界の運命だよ。その厳しい世界で、僕たちは現実に生きているのさ。魔法という御褒美を与えられてね」
「なんだよ、そりゃあ……」
「なんにせよ、まずキレット達と連絡を取って……明日にでも動こう」
「あっしらは、ここで待ってるんで?」
プランタンタンが顔色も変えずに、火で尻をあぶりながら薄緑の目でルートヴァンを見上げた。
「もちろんだ……行くのは、念のためにスーちゃん、僕、フローゼ……」
「私も当然、行くよ! 行くからね!」
部屋のどこかから、そう、オネランノタルの合成音のような声が響いた。
「なんだよおめえ、いたのかよ!?」
フューヴァが驚いて、声のほうを見やった。が、部屋の隅の暗がりに何かがいるのかどうかすら分からなかった。
「流石にこの姿で王宮をうろうろするのは、話をややこしくするだろうからね。透明になってるんだよ」
「とっとと、元の姿に戻れや!」
「フシュィイーーッヒッヒヒヒ! まあ、そのうちに戻ると思うよ!」
「ナニ云ってんだ、てめえ!」
フューヴァの悪態もかまわずに、オネランノタルのカチカチという9本の脚が床をかむ不気味な音だけが響き、ルートヴァンの足元に透明な何かが移動する気配が分かった。
「じゃ、オネランノタル殿と……4人だ」
「ピオラは、どうするの?」
フローゼが尋ね、
「ピオラはここで、プランちゃんたちを護ってもらう」
「え? あっしらをでやんすか?」
プランタンタンが、美しく大きなエルフの目を丸くした。
「もちろんだよ。こことて、どうなるかわからんよ」
「どうして?」
フローゼも、素直に不思議に思った。
「跡取り王子の死は、いやでも偽ムーサルクに喧伝される。それに対し、王はもう民の前に出ることは無い。重臣らで、偽装した声明だけ発表するという手もあるが……いずれ王の死も知れ渡ることだ。そうなると、残るのは死んだ第1王子の子供らと、僕らに接触してきた、王になりたいだけの第3王子」
「そうね」
「……ゾールンの封印墓所を守護、監視する責務のあるチィコーザ王国で、そんな小器や若輩が王になったところで、責務は果たせん。それゆえの、王に跡取りがいない場合は、5つの宮家から相応しい者が宗家を継ぐというチィコーザのしきたりだ。まして、今は内乱の真っ最中だ」
「でも……いくら相応しくないと云っても、第1王人の子供も、第3王子も実際に健在だし……」
フローゼがそこまで云って、
「え、まさか」




