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第12章「げんそう」 6-9 王国最大の機密

 「そうだ。おそらく……王位の継承などは建前で、真の狙いはこの王宮の地下深くに護られている宝珠『冬の日の幻想』の奪取であろう。自らを戒める封を、少しでも解くためにな……」


 重臣たちも、王の告白に眼の色を変えて互いに見合った。宝珠のことは、少なくともこの部屋にいる重臣たちはみな王より聞いて知っている。また、各5宮家の当主も、代々の王より伝えられている。チィコーザ王国の王位継承のしきたり・・・・に関わる全員が、共通して認識していることだ。


 ただし、王と当主、そしてその最側近しか知らない。また、無用な他言も無用であった。


 その王国最大の機密を、まさか移封いほうした古代の魔王本人が奪取せんと画策していたとは……!!


 「それで、全てがつながりました。また、チィコーザ王国が宝珠やゾールンの廃神殿に関する情報を全て葬り去ろうとしていたことも」


 「全ては、タケマ=ミヅカ様の大いなる御意思の守護のためよ」

 「ハイ」

 「むしろ、ただの内乱であれば、どれほど良かったか……!」

 イリューリが、脂汗を浮かべ、苦悶に顔をゆがめた。

 「陛下、そろそろ御休みに……」

 ルートヴァンがそう云ったが、

 「馬鹿者……! 休んだところで、死は変わらんわ。魔王様……魔王様……!」

 もう目がかすむのか、虚ろな眼でイリューリが震える右手をあげた。

 「私はここです」

 ストラの声は、どこまでも無機質だった。


 「魔王様……おそらく……最後の敵は、古代の魔王ゾールンにて……! あ、あやつめは、9つの世界に渡って封印されているとのこと……その力は、想像を絶します……!!」


 「ど、どういうことですか、陛下!」

 ルートヴァンも、思わず声が少し高くなった。

 「帝都の……地下書庫に……何か……あるやも……!」

 「地下書庫に!」


 「ルーテルよ……我が弟ながら……こっ、皇帝は、大魔神様に、き、帰依しすぎている……おそらく、帝国を破壊する……イジゲン魔王様に……協力はすまい……」


 「……ハイ」


 「ま、ま、魔王様……国や人は……栄えてはほろび・・・……またいつか、栄えましょう……しかし、せ、世界は……いちどほろぶと、もはや……」


 「陛下、御安心召され、このルートヴァンめが、聖下と共に! この世界を、滅亡から救済して見せまする……!」


 「頼む……頼んだぞ……たの…………」

 眠るように、イリューリが再び昏睡に入った。


 重臣たちが息を飲み、すがるようにストラを見たが、ストラは無表情のまま、動かなかった。


 王の最期を悟り、重臣たち、ストラやルートヴァンに深く感謝の意を示し、

 「陛下の御見送りは……我らが……」

 ルートヴァンも神妙に目をつむり、イリューリに礼をする。

 「重臣がた、陛下の御言葉は聴いたな」

 「ハイ」

 リャストーシル卿が代表して、答えた。

 「我らは、魔王ゾールンが手の者である偽ムーサルクと対峙するが、よいか」

 「もちろんで御座りまする」


 「だが、相手は魔王ではない。聖下が直に出ることは無い。従って、おそらく、国が焼け野原になるようなことは無いと思うが……どうなるか分からん。いつ、魔王ゾールンが遥か地の果てより干渉してくるか……」


 「雷鳴王の教えは健在! 魔王と魔王の戦いで国が亡ぶは必定! 覚悟して御座りまする」


 「お前たちが覚悟していても、他の者はどうなのだ」


 「……フフ、覚悟の無い者に覚悟を迫るほど、我らは残酷でもヒマでも御座りませぬ。ことが魔王様に関することであれば、人の思惑など蟲のざわめき・・・・がごとし。違いますか、殿下」


 ルートヴァンが、ニヤッと笑い、

 「その通りだ」

 とだけ、云った。



 「国を率いる人たちは、何かと大変なのね」


 王の寝室より控えの間に至る薄暗い回廊で、全てを見聞きしていたフローゼが、ボソリとつぶやいた。


 「どうした、今更……」

 ルートヴァンが、わりと素で驚いた。


 「いや……私はずっと在野で冒険をしていたし、ノロマンドルで公家の相談役みたいなことをしていたとはいえ、別に公務に携わっていたわけじゃないし……70年も、呑気にやってたんだなあって」


 「自覚したのか」

 「自覚ってほどでもないけど……」

 「しっかりしろ。それに帝都の地下書庫となれば、おそらくペッテルの出番だ」

 「そうなの?」

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