第12章「げんそう」 6-7 王の容態
「私の腕がうまいんじゃないか!」
オネランノタルも負けてはいない。
「な、何者か!!」
騎士達が抜剣し、誰何。
「たわけ! こ……」
と、云いかけ、ルートヴァン、
「フューちゃん、教えてやりなよ」
「よっしゃ」
ドバドバと顔に降りかかる雪に戸惑いながらも、フューヴァ、
「この馬鹿野郎ども!! こちらにおわす御方を、いったい何方と心得やがる!! 天下無双のイジゲン魔王ストラ様だぞ!! てめえらに呼ばれて来てやったんだ!! いいから、控えやがれ!!!!」
タケマ=ミヅカに習った妙な節回しではなく、自然とそう担架を切ったのはフューヴァも慣れてきたのもあるし、何よりこの顔に降りかかる大量の雪に辟易して、とっとと城に入りたいからだった。
「おらッ、速く案内しろや!! じゃなきゃ、ナシの分かるやつを出しやあがれ!!」
と、云われても、話を聞いていない第2騎士団は戸惑うしかない。
そこに、城から馬で数人の第1騎士団「王冠」の騎士がすっ飛んできた。
「控え、控えよ! 陛下の御召喚だ!! 魔王様だぞ!」
同じ宮廷騎士でも、第1騎士団とそれ以外の騎士団では、ヒエラルキーがあからさまに違う。
第2騎士団員らが直立で応答しつつも、
(魔王……!?)
(どいつが、魔王だ!?)
と思って、自然にルートヴァンを見やった。
「御速い御到着、感謝いたします!! どうぞ、こちらに!!」
第1騎士団の1人が徒歩で先導し、他の騎士達が直立不動で見送った。
城内でひときわ大きな王の屋敷に入り、用意された高級なタオルで髪や身体を拭いてから、一行はすぐに王の寝室に通された。
と云っても、ピオラはやはり人間の建物は狭いのでローブをマントに展開して王の屋敷の玄関前で雪にまみれながら仁王立ちにストラを護り、不気味な魔物の姿のオネランノタルも空気を読んで遠慮し、どこかに消えている。また、プランタンタンら3人も、暖かい控えの広間で待っていることにし、王の寝室にはストラ、ルートヴァン、そしてフローゼの3人が入った。
燭台の火と淡い照明魔術に照らされた薄暗い寝室には、ルートヴァンに連絡を取った内務大臣リャストーシルを含め、侍従長や宮廷大臣、魔術師長、それに第1騎士団長のドセーフリィらがいた。
「イジゲン魔王様、エルンスト大公殿下、焔の女勇者フローゼ殿で御座りまする」
侍従の声も低く、小さい。
「おお……どうぞ、こちらに」
リャストーシルが泣きはらした目で3人を迎え、王の近くにいざなった。
3人が無言でベッドに近づくも、イリューリは深く昏睡し、げっそりとやつれて見えた。
(これは……もう、ダメだな)
ルートヴァンは一瞥しただけでそう看破し、フローゼと目を合わせた。フローゼも、眉をひそめて小さくうなずく。
が、ストラが無表情のまま、イリューリに手をかざした。
一同が驚いて声をあげたが、
「聖下は、我らの術とは異なる強力な回復魔術を使いまする」
ルートヴァンがそう云い、動揺の声が期待と感嘆の響動きに変わった。
ストラは頭の先から深層探査を行い、細胞はおろか遺伝子レベルまで解析した。
「小規模脳梗塞が4か所、中規模脳梗塞が1か所、脳を含め全身に動脈瘤が大小34か所、血液は中程度の脂質症、糖尿病、脂肪肝、慢性腎炎、全身の変形症を含む関節炎、白内障、網膜剥離、重度の心房細動による心筋梗塞、ほか一部骨の変形、その他、加齢による諸症状を認めます」
久しぶりの独り言が出て、ストラが正気に戻り、ルートヴァンの顔がやや明るくなる。そんなストラの声を聴いたことのないフローゼは、驚いてストラを凝視した。
「せ、聖下、イリューリ陛下は……」
「根本的に極度のバイタル低下。意識不明。私のナノマシン治療も、効果は一時的でしょう。完治は不可能です」
その声に、取り巻きが悲嘆の声を発した。
「そうですか……」
ルートヴァンも肩を落とす。王は、封印魔王とチィコーザ王国の関係に関する重大な秘密を知っているはずなのだが……王以外に、誰か知っているのだろうか。
「しかし、一時的にでも意識を取り戻す可能性はあります。ルーテルさん、やってみますか?」
ストラがそう尋ね、ルートヴァンは重臣たちに確認もせずに、
「ぜ、是非にも!」
と答えていた。




