第12章「げんそう」 6-6 いざ、王都へ
「じゃ、プランちゃんも早く支度して。フューちゃんとペーちゃんは?」
「いつでもいいぜえ」
ちょうど2人も階段を降りてきて、しかも、3人は相部屋だったのでフューヴァがプランタンタンの荷物も持って来ていた。
「ありがとうでやんす」
「オネランノタル殿はどうした?」
「外で待ってんじゃねえの?」
「近距離だから、転送はオネランノタル殿に任せて、僕はみんなを魔力障害から守る術をかけるよ」
「まかせるぜ」
4人が表に出ると、既にフローゼ、ピオラ、オネランノタル、そしてストラが宿の前で待っていた。
時刻は、我々で云う午後4時ころ。薄暗くなってきている。
濃い曇天で、いまにも雪が降りそうだった。
「よし、じゃ、王都に向けて出発……と、行きたいが」
ルートヴァン、そこでシーキを探す。
「おい、シーキ、シーキ、お前も来い! どこにいる!?」
「アタシが呼んでくるぜ」
ひとっ走り、フューヴァがシーキの滞在していた近所の空き家へ向かう。が、すぐに戻って来て、
「おい、ルーテルさん! シーキさんがいねえぞ!」
「なんだって?」
「誰にも気づかれねえで、パッと街を出て行ったみたいだ!」
「フン……おおかた、王都が戦いに巻きこまれたときに、見たくなかったのだろうさ。ガフ=シュ=インの王都は、自分のところの魔王の攻撃で跡形も無くなったからな」
いささか失望しつつ、ルートヴァンが吐き捨てる。
「でも、特務騎士なんでしょ? いくら話が衝撃的だったとして、逃げるかな」
フローゼの言葉にフューヴァも、
「そうだぜ、ルーテルさん、きっと違う仕事でどっか行ったんだろうさ」
「フ……そうだとしても、水くさい奴だ。まあいい、我らは急ぎ王都へ向かおう。オネランノタル殿」
「私は、いつでもいいよ」
「僕も、大丈夫だ。よし……では、頼みます」
「じゃ、あの白いトリが飛んで来た魔力の痕跡をたどるよ。いいかい、みんな!」
未だ魔物の姿のオネランノタルの、四ツ目触覚の合間のシンバルベリルが赤く発光し、魔力の矢となってカリーニの街から夕暮れの天に向かって8人を運んだ。
その光を、カリーニから王都へ向かう街道上で、シーキが見上げる。
(申し訳ありません、殿下……私は、殿下たちと一緒に行かぬほうがよいでしょう)
毛長馬を飛ばせば、王都までは5日ほどで着く。おそらく偽ムーサルクらも、年が明けてからの厳冬期を迎える前に、王都に向けて進軍するだろう。でなければ、春まで待たなければならない。そんな、悠長なことをやるとも思えぬ。
未だ、シーキへ下されている命令は、ルートヴァンやストラの動向を探ることだ。その命令自体はまだ撤回されていないため、魔王一行について行くのは変わらない。
が、あくまで、尾行する。仲間のように一緒に行ったのでは、いらない疑念を王家や政府に与えるし、シーキの立場や信用もある。これまでのような馴れ合いは、けしてお互いに良い結果を生まないと確信していた。
「ドゥッ!」
シーキは独特の掛け声とともに馬を飛ばし、冬の街道を駆けた。
王都はその日、暗くなってから、雪が降り始めた。これまでも降っては融け、降っては融けと云った状態だったが、いよいよ根雪となる本格的な降雪が始まったようで、前も見えない状況だ。
この雪を、王宮中枢の人々は歓迎した。常識的に考えて、
(これでは、偽ムーサルクめも春まで進軍は無理だろう……)
とはいえ、海外遠征ではなく内戦だ。王都まで7日程度のところにいることには、変わりない。
気を引き締めつつ、何とか王の快癒を待つほかはなかった。
(本当に、御目覚めになるのか……!?)
その言葉は、誰もが喉まで出かかっていたが、誰も口にしなかった。
そこに、雪の降りしきる王宮の中庭に稲妻が落ちた。
それどころか、地震めいて地面が揺れ、警備兵や王宮警護専門騎士団である第2騎士団「白百合」隊からも騎士が何人か飛び出た。その中に魔法騎士もおり、煌々と照明魔法を照らしつける。
大粒の雪の中にいたのは、もちろんストラたちだった。
「近距離だから、うまく着地できましたな」
降りしきる雪に、額へ手を当てながらルートヴァンが云った。




