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第12章「げんそう」 6-5 あわただしく出発

 「誰だ?」

 ルートヴァンが小声でシーキに訪ね、シーキが驚きをもって、

 「リャストーシル卿……内務大臣にて……!」

 「ほう……」

 改まってルートヴァンが、代表して対応した。


 「異次元魔王聖下が第一の使徒、エルンスト大公ルートヴァンである。内務卿が直に御伝達とは……何か、切羽詰まった御事情でも御有りで?」


 「いかさま。伝達では申せませんが、国王陛下が、殿下及び魔王様に、至急、御会いしたいとのこと……何卒、王都まで急ぎ、御参上頂きたく……」


 (フフ……王国主力の討伐軍が惨敗して、あわてて僕らに近づいてきたな……)


 ルートヴァンはそう思ったが、討伐軍壊滅を既に知っていることを悟られぬよう、あえてカマをかける。


 「イリューリ陛下が? 急にどうされたのだ?」

 「御許しくだされ、事は厳重なる機密を要し、この伝達では……」

 リャストーシルの声に嘘はなく聞こえ、また、もう泣きそうになっている。

 (これは……イリューリ王に何かあったな……)

 ルーヴァンはそう看破し、

 「僕だけでは決められん。聖下に御裁可をいただ……」

 「いいよ」


 いつの間にか部屋の隅にストラが立っていて、フローゼですら驚いて震えあがった。


 (なんでこの人、こんなに気配がないんだろう……!?)


 フローゼが胸を押さえながら赤く美しい目を丸く見開いてストラを見つめていると、ニヤッと笑ったルートヴァンが、


 「聖下の御裁可を頂いた。すぐにも向かおう。王都までは、何日くらいで着く?」


 それはシーキに向かって云ったのだが、

 「殿下、緊急事態です。転送魔法を御使用くだされ」

 「なんだって? 王国内で転送魔法を?」

 そこまでとは……! フローゼやオネランノタルも驚いた。

 「いかさま。もう、本当に今すぐ・・・にでも陛下に……!」


 「分かった。だが、こちらも最低限の準備がいる。速くても今夜か、明日の早朝になるぞ。よいか。よいな」


 「ハイ……何卒……何卒……ことは、王国の危機だけでは収まりませぬ……」

 (と、すると……例の魔王ゾールンがらみだな……!)

 ルートヴァンはさらにそう看破し、


 (フ、流石イリューリ王、国や家の都合より古代の魔王対策を優先するとは……雷鳴王の教えを、よく受け継いでおられる)


 そう、うなずいた。

 「何卒、何卒宜しく御願い奉りまする……」

 大臣の声が遠くなり、白鷹が霧散して消えた。

 


 それから、にわかに慌ただしくなった。

 「プランちゃん、宿の清算を頼む!」

 「ほいきた、まかせるでやんす!」


 ルートヴァンの投げてよこした金貨の入った袋を受け取り、プランタンタンがロビーからカウンターに走った。


 フューヴァは、部屋に戻り飲んだくれているペートリューを叩き起こした。

 「おいコラ起きろ!! 王都に向けて出発だとよ!」

 「ふええ? いまかられすかあ?」


 「てめえはいつでも寝こけてるんだから、いっしょじゃねえか! 嫌なら、置いてくからな! 酒はてめえで買って飲め!」


 「行きます」


 急にシャッキリとベッドから起き上がり、あわててそこらの酒瓶を頑丈な竜革のカバンに詰めるペートリューを見やって、フューヴァが苦笑する。


 フローゼもピオラに、ザっとあらましを説明した。だがピオラ、


 「あたしゃあ、なんでもいいよお! 難しい話はナシだあ! ゲーデル山まではあ、大明神サマについてくよお!」


 大きな真っ黒いゴーストカーテン姿で、手を上げてそう云うので、その滑稽な姿にフローゼも苦笑するほかはない。


 「ルーテルの旦那あ、御金様を支払いやした!」


 プランタンタンが、小荷物を持って部屋から降りてきたルートヴァンに報告をした。


 「御つりでやんす」

 「ちゃんと、色を付けたかい?」

 「もちろんでやんす!」

 鼻息荒くそう云いつつ、いつもの癖でついつい値切ろうとしてしまったのだが。

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