第12章「げんそう」 5-17 大胆な仮説
「我が王位を簒奪した東宮家の強盗どもこそが、偽王と云えよう!」
「まさに!」
「引導では生ぬるい! 生贄とせよ!」
「畏まりまして御座りまする!!」
ゴドゥノや伯爵家の将軍らがいきり立ち、総攻撃を命じた。
仮要塞陣地の木門が開き、ドッと兵士が躍り出た。
「団長、敵兵が!!」
「迎え討て!! 反乱軍の雑兵ごときに後れを取るなァアア!!」
平原での騎馬戦なら無敵の第5騎士団も、馬から降りて丘の上の要塞陣地を攻略するのではまったく話が違う。
槍衾が斜面を駆け下りて、容赦なく地面に下りた騎兵を串刺しにした。
上からは最後の魔術と矢が襲い、騎兵たちをすり潰してゆく。
「ハハハハハ! 主力の第4、第5騎士団を打ち破れば、もはや偽王家に兵は無いも同然に御座る! 一気に王都に攻めこみ、イリューリ偽王の首を刎ねましょうぞ!!」
ゴドゥノが眼の色を変え、そう叫んだ。ムーサルクも、嬉しそうにうなずく。
「ムーサルク様、万歳ぃいいいいいいい!!!!!!」
まだ騎士団との戦闘が行われているのにゴドゥノが再びそう叫んで右手を突き上げ、他の者もいっせいに叫びだした。
その異様な光景を厳しい表情で眺めまわしつつ、ホーランコルはムーサルクの云った言葉が気にかかっていた。
(生贄……?)
確かに、ホ-ランコルは以前、ムーサルクに対しそういう感想を抱いた。だが、あれは自身の軍を生贄にするつもりか……という意味であったし、よもや相手の軍団を生贄にせしめるとは。
(自分に対する生贄なのか? それとも、もっと大きな……何者かへの……生贄なのか……?)
ホーランコル、にわかにムーサルクの影に何か得体のしれない存在がいるように思えて、冷や汗が流れた。
鎚の最後の騎士が倒れたのは、それからすぐだった。
ムーサルク軍が勝利に沸き立ち、シャスターでも街の人々が驚愕と衝撃に打ち震え、
「こうなっては、本当にムーサルク様が新王になられるかも!」
などと思い始めたのは、無理からぬことだった。
兵たちの慰問も兼ねて3日間、宴が催され、伯爵家の屋敷もムーサルク側近に開放されて、傭兵達も大いに盛り上がった。
もっとも、30人ほどの傭兵の中でも、ホーランコル、キレット、ネルベェーンはそれどころではなかったが……。
いや、もう1人。
その正体は第6騎士団「穴熊」の諜報騎士であるリードルは、この宴の機会にかねてよりの密命を実行しようとしていた。
また、ホーランコルらも、表向きは大いに勝利を祝いつつ、飲み疲れたふりをして部屋に戻るや、魔法の小竜を呼び出しキレットがルートヴァンに詳細を伝える。
「南方大陸の、大規模な呪いの魔術だと!?」
「いかさま……!」
「ふうむ……」
さしものルートヴァンも、そう唸ったまま無言となった。ややしばしして、
「どうなっているのか、さっぱりだな」
「はい」
「だが、フローゼらの調査によると、廃神殿の地下深くで、はるか南方大陸に移封された太古の魔王は、いまだにその恐るべき魔力を使い、封印の跡を辿ってチィコーザ側に干渉してきているそうだ」
「え……なんと!?」
「これは、我ながら大胆な仮説だが……」
「はい」
「移封された魔王と、その偽ムーサルクが、つながっているとしたら、どうだ?」
「な……!!」
キレットが絶句し、魔力通話により聴いていたネルベェーンが珍しく発言。
「殿下、しかしそれでは、偽ムーサルクめの目的は?」
「フフ、お前なら、どうする?」
「え、あ……恐れながら、私ごときには……なんとも……」
「ネルベェーンよ、思慮深く無口なのは悪いことではないが、時には積極的に前に出なくてはならないぞ。考えを述べよ」
「ハッ! では、恐れながら申し上げます。その移封された魔王とムーサルクめがつながっているとしたら、魔王がムーサルクめをこの地に送りこみ……王家を亡ぼし……何かしらの法をもって、封印を解こうとしているのでは……?」
「流石だ、ネルベェーンよ。僕もそう思う」




