第12章「げんそう」 5-8 チィコーザ王家の秘密
「やっぱり? そう思う? じゃないと、移封の跡を手繰ってまでして、こっちに魔力や魔物を送ってよこさないよね」
「何のためにかは、知らないがな……」
「でも、どっちにしろ戦うんでしょ? イジゲン魔王」
「聖下が本調子でないうちは、厳しいかもしれんな……」
「そうなの?」
云いつつ、フローゼがまだ子供の歓声が聴こえる表をドア越しに振り返った。
「これまでの魔王とは、それこそ次元が違う気がする……ペッテルにも情報を伝え、もっと探らなくては。拙攻はいかん。戦うにしても、充分に準備が必要だ」
「それは、まかせるけど」
ルートヴァンがカップをテーブルに置き、
「じゃ、明日にも王都に向けて出発しよう」
それにはみなが驚き、フローゼも、
「え? 王家とその偽物の争いには、不干渉なんじゃないの?」
「もちろん不干渉だよ。だが、ずっとここにいる約定などした覚えがない。それに、実は偽ムーサルクのやつとも既に接触していてな、王家に重圧を加えるだけで、そのゾールンとかいう謎の魔王の移封先を詳しく教えてくれるそうだ」
フローゼが一瞬、あっけにとられ、
「なんですって! あきれた! サイアク! 聴いた!? ちょっと、この人! いちばん敵に回しちゃいけない人だわ!」
フローゼの声に、プランタンタンとフューヴァが違いないと苦笑する。
「御褒めにあずかり、恐縮だ」
「褒めてないから!」
と、フローゼが息をのんで、
「……ちょっと待って、大公、いま、なんて?」
ルートヴァンが、ニヤッと笑った。
「その偽ムーサルクとやらはな、700年前に魔王が移封された大陸の果ての、正確な場所を知っているんだそうだ」
「ホント!?!?」
流石に、フローゼも大声を発する。
「どうして、そんなことを知ってるわけ!?」
「さあな。オネランノタル殿は、どう思われます?」
まだ犬みたいにフューヴァに抱かれているオネランノタル、
「うそだね! 知るわけがないよ」
「ま、ふつうはそうでしょうな」
「その偽ムーサルクとやら、普通じゃないってことかい?」
「妙なシンバルベリルといい、はったりだとしても、そもそもその謎の魔王のことを知っていることといい、普通ではないでしょうな」
「なるほどね。それを探る意味でも……かい?」
「その偽ムーサルクも含めて、チィコーザ王家にはまだ秘密があるような気がします。それを、あぶりだしてやろうかと……」
そう云って楽しそうにニヤニヤするルートヴァンを見やって、フローゼが思わずフューヴァとプランタンタンを見た。2人が同時に肩をすくめて、
「ま、今に始まったこっちゃねえよ」
「そうでやんす。ルーテルの旦那が、なんだかんだで一番ストラの旦那との旅を楽しんでるでやんす!」
「やれやれ……」
フローゼが、肩をすくめた。
「さすが大公だ! 私も負けないで、ストラ氏を楽しむとするよ!」
フューヴァの腕の中でワキワキと不気味な9本足を動かしながらそう云うオネランノタルに、思わずフローゼが、
「アンタは、もう少し真面目にやりなさいよ!」
王家が第4騎士団と第5騎士団に動員をかけたというのは、すぐにシャスターのムーサルク達にも伝わった。すなわち、王都にムーサルクの手の者が潜んでいることになる。
「討伐軍の規模は、判明しているのか?」
主だった傭兵たちはムーサルクの護衛任務に戻っているので、ホーランコルとキレットも軍議の部屋の出入口を護衛していた。ムーサルクとゴドゥノ、傭兵隊長のウィーガーそれにシャスター伯軍で生き残ったジェストル部隊長が軍議に参加している。
「王都の同志の報告によると、第4騎士団と第5騎士団のほぼ全軍が編成されたようです」
ゴドゥノがそう報告し、ムーサルクが、
「それは、どれほどの陣容なのか?」
「はい、第4騎士団『走竜部隊』が総勢483名、第4軍団規模約8,000人、第5騎士団「鎚部隊」総勢2,356人、軍団規模約32,000人、総勢約43,000人とのことです」




