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第12章「げんそう」 5-7 人をだめにするクッション

 フューヴァが眉をひそめた。

 「え、それって?」

 「まさかね」

 ルートヴァンが、ひきつった笑みを浮かべた。


 「え、するってえと、ルーテルの旦那の御先祖様が、その大昔のゾ、ゾーロンだかっちゅう魔王を大陸のどっかにやっちまったてえことでやんすか?」


 「分からないね!」

 開き直ったように云うルートヴァンに、フューヴァ、

 「聴いてみろや、王様やシラール先生によ!」


 「もちろん聴くよ、聴いてみるさ。しかし、これまでまったくそんな話は聴いたことがないし、今回チィコーザに行くことになった報告をしたときも、何も云われなかった。もし御爺様や先生がそのことを知っていたら、何かしら云ってくるだろ、さすがに」


 「そうかもな」

 「だから、たぶんウチには伝わっていない気がするなあ」

 「そんなことがあるのかよ!? 初代の王様のしたことだろ!?」

 「あるのかよって云ったって、これが現実さ」

 「…………」

 プランタンタンとフューヴァも黙りこんで、互いを見合うしかなかった。



 そして翌日の午後、フローゼ達が帰還した。


 その日も、朝からストラは家の前で延々とラジオ体操を行っており、村の子供らが面白がってマネをしていた。


 さらに、珍しくペートリューも起きだして水を飲み、

 「なあんか、今日は冷えますねえ~~」

 などと暖炉にあたっているので、

 「槍でも降るんじゃねえ?」

 フューヴァが驚いてそうつぶやいた。

 「ただいまあ」


 ピオラは狭いのと暑いので外で斧を下ろし、子供らにラジオ体操を教えるストラの横に座りこみ、フローゼとオネランノタルが家に入った。


 「なかなかいい隠れ家じゃない。こんな辺鄙な村、よく見つけたものね」

 「シーキの案内だ」

 「だれ?」

 フローゼが眉をひそめたと同時に、


 「おいおいおい! そんなことよりおまえ、オネランノタルかよ!? なんだよ、そのかっこうはよ! 気色わりいな!!」


 まだ不気味な黄色に黒縞模様のカニコウモリヨツメオオシマナメクジとでも云うべき魔物の姿でいるオネランノタルに、フューヴァが驚きつつも噴き出して笑って、そう叫んだ。


 「うるさいな! なかなか元に戻らないんだよ!」


 云いつつ、子犬みたいにオネランノタルがフューヴァにとびかかって、じゃれついたものだから、


 「うっひゃあ、気色わりぃ! アッハハハハ!! やめろよ、おい!!」

 そう云うフューヴァもオネランノタルを両手で抱きながら撫でまわし、

 「おい、こいつ、見た目は気色わりぃけど、えらい触り心地がいいぜ!」

 まるで「人をだめにするクッション」めいた、絶妙な感触に驚いた。

 「くすぐった……フューヴァ、やめてよ、くすぐったいじゃないか!」

 「魔族でも、くすぐったいのかよ!?」

 「アヒャヒャヒャ、やめ……やめてよ……イッヒヒヒヒ!! 止めてってば!」


 「ちょっと、うるさい! 2人ともいい加減にしてちょうだい! いつまで遊んでいるわけ!?」


 フローゼが怒鳴りつけ、オネランノタルを抱いたままのフューヴァが、

 「わりぃわりぃ」

 と云いながら、笑みを浮かべて暖炉まで下がった。

 改まってフローゼ、テーブルで茶を淹れるルートヴァンに、

 「大体は、オネランノタルから聞いているかと思うけど……」

 神殿の地下でのことを、詳細に報告する。

 また、ルートヴァンからもレーンスキィルの情報が伝えられた。


 「へえ! ヴィヒヴァルンの初代の王様が、700年前にあいつ・・・を地の果てにぶっ飛ばしたのかもしれないの!」


 さすがにフローゼも驚いた。

 「何の話ですか……?」


 ペートリューがこっそりフューヴァに尋ねたが、説明が面倒くさいのでフューヴァ、


 「黙って聞いてろや」

 ペートリューが不貞腐れて、カップでワインをガブ飲みし始めた。


 「しかし、そのゾールンとかいう古代の魔王、その様子や言動だと、封印を破るか、少なくても移封いほう術を破ってこっち・・・に戻ろうとしているのではないか?」

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