第12章「げんそう」 5-4 条件
が、流石に違和感を感じたのか、ルートヴァンの前に進み出たレーンスキィルがチラッとシーキを見やり、すかさずシーキが後ろ手で小さくハンドサインを出した。
2人の間のやりとりはそれっきりだったが、既に、レーンスキィルはシーキが穴熊であることを認識し、以後そのように振る舞い、報告する。
「御苦労、使者殿。異次元魔王聖下が第一の使徒、ヴィヒヴァルンがエルンスト大公ルートヴァンである」
ルートヴァンが頬杖に薄ら笑いのまま、そう云い放った。言語調整魔術により、言葉が通じるはずだった。レーンスキィルが胸に手を当てて深く礼をし、
「チィコーザ王国第1宮廷騎士団副団長のレーンスキィルに御座りまする。イジゲン魔王聖下におかれましては、国王陛下のたっての頼みを受け入れて頂くべく、惨状仕りました」
「当然のこと乍ら、聖下は貴様ごときに御会いにはならん。全て僕を通してもらう」
「いかようにも」
「話は、だいたい聴き及んでいる。イリューリ陛下におかれては、なにやら怪しげな騒乱分子に御手を焼いている御様子」
「御恥ずかしながら……その通りにて」
「我々は、王国内の騒乱などに一切の興味はない。どちらにも組みしないので、御安心召されよ」
「それは重畳! 陛下も御喜びに」
「ただし、条件がある」
「なんなりと」
「既知のことかと思うが、異次元魔王様はかの大魔神メシャルナー様以来およそ1000年ぶりに救世の大事業のため、この世の魔王をすべて倒す旅の最中である。我ら使徒はその御助けをしているところだ」
「存じ上げております」
「既に4人の魔王を討ち倒したが、残る4人の魔王の居場所は我らでも分かっていない」
「ハッ」
「ところで、この国にはかつて魔王が封じられており、その魔王をさらに何処かへと転送したという。その詳細を教えてほしい」
「畏まりまして御座りまする。さっそく国王陛下にその条件を伝え、おって陛下よりの沙汰を御伝え申し上げます」
「そうしてくれ」
レーンスキィルが再び深く礼をし、下がった。そのまま従者を連れて村を出て行ったのを確認してから、
「あの場で教えてくれるかと思ったが、いったん持ち帰るのか」
ルートヴァンがシーキにそう尋ねた。
「殿下、いちおう、その条件は向こうも初めて聴いたことになっていることを御忘れなく」
シーキが口をへの字に曲げ、そう云った。
「それもそうか」
ルートヴァンが短く笑い声を上げ、暖炉の前で聴いていたフューヴァ、
「しっかし、回りくでえよなあ。行ったり来たりしてよお」
「まあまあ、その分、僕らは休めるじゃないか。フローゼ達の報告もあるだろうし」
「そういやあ、無事なのかね、あいつら」
「オネランノタルから何も云ってきてないし、無事だと思うけどね」
御気楽に云い放ち、ルートヴァンが暖炉の上にかけてあるケトルからカップに湯をとった。
「シーキよ、晩飯を食っていったらどうだ」
「けっこうです」
「水くさい奴だな、仲間だろ」
「仲間じゃありませんよ!」
驚いてそう答えたシーキに、ルートヴァンがまた笑って湯をすすった。
気の毒そうに、プランタンタンがシーキを見つめている。
その翌日、オネランノタルからルートヴァンに魔力通信があり、一足先に報告を聞いたルートヴァン、
「なんと……移封先の魔王……と、思わしきやつ……が、そこまでの力を……」
やや、驚いた。
「私なんか、まだ完全に身体を復元できていないんだよ」
「ちょっと、認識を改めないといけませんな」
「魔力の質も、少し違うんだ」
「ほう。どのように?」
「うーんと、なんて云うかね……私らの使う魔力と、少し違う。それこそ、ストラ氏じゃないけどさ、私らの世界とよく似てるけど、ちょっと違う世界の魔力というか」
「…………」
きっとそれは、異世界から来たストラという存在を知らなかったら、オネランノタルも発想しえなかっただろう。ルートヴァンはそう思った。




