表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
696/1279

第12章「げんそう」 5-2 動員

 「ハッ」

 「走竜カーゲルに加え、ウルとその軍団に動員。偽ムーサルクを殲滅する」

 「畏まりまして御座りまする!」

 その時より、にわかに王宮が慌ただしくなった。


 第4騎士団通称「走竜カーゲル隊」は内務騎士団であり、配下の軍団を含めて治安警察のような騎士団である。第5騎士団通称「ウル隊」こそがチィコーザ軍団の本命で、対外戦闘騎士団であった。構成人数も、最も多い。


 そのウルも動員するということは、初手からチイコーザのほぼ全軍で躊躇なく叩きのめすことを意味する。


 「総指揮官はマルフレード、副将としてアーレンスが補佐せよ」

 「ハッ」

 「準備にかかれ」

 大臣たちが、素早く動いた。



 この王命に天井まで届く勢いで歓喜の声を発したのは、第1王子のマルフレードだった。


 「いよいよ、おれが反乱軍鎮圧の総大将に……!!」

 「殿下、御目出度う御座りまする!!」

 取り巻き連中も、そろって笑顔を浮かべた。

 「ようやく、おれも、これで……!」

 マルフレードが、思わず涙ぐむ。

 もらい泣きをしつつ、家宰兼教育係が、

 「殿下、まだ早う御座りまする。見事、偽ムーサルクどもを皆殺しに……」


 「分かってる! おれこそがチィコーザの後継者であると、内外に知らしめるぞ!!」


 「その意気や良し!!」

 「流石で御座りまする!!」

 取り巻き達の拍手に気を良くし、

 「前祝いだ! 酒を持て!」


 マルフレード邸では、王宮が動員令でアリの巣をつついたような騒ぎになっている中、夜通し宴会が続いたのだった。


 その様子を、当然のごとく王もとらえているし、第3王子クリャシャーブも兄王子邸に放っている密使からの報告で知った。


 「陛下は、何を御考えなのでしょう……あのような愚物に、総指揮官など勤まろうはずが」


 家宰の言葉に、クリャシャーブ、


 「わからんぞ、ああいう人間は、国難に際し常識では考えられん力を発揮するときがある」


 「殿下、褒めている場合では御座りませぬ」


 「分かっている! もしかすると父上のことだ……兄上を、体よく排除する気かもしれん」


 「なんと……」


 家宰が息を飲んだ。討伐失敗を見越し、詰め腹をとらせる人事……ということか。


 「しかし、失敗が許される状況なのでしょうや?」

 「分からん。何も知らされていないからな」

 「殿下、いかがいたしましょう」

 「決まっている。イジゲン魔王に密使を送れ。穴熊ルルードに気取られるな」

 「畏まりまして御座りまする」

 家宰が、深く礼をした。



 その異次元魔王御一行は、そのころ、街道筋の宿場カリーニから少し離れたボリツァイという村にいた。


 大した村ではなかったが、宿場町にいれば無用に目立つし、そこで隠れてフローゼらの報告を待ちつつ、偽ムーサルクの動向を探っていた。


 ちなみに、案内した……というか、させられた・・・・・のは、シーキである。


 伝書鳩で密書を放ってからゆるゆると一行を尾行していたが、すぐに見つかって、ルートヴァンに、


 「おいシーキ、目立たないで滞在できる村を教えてくれないか。特務騎士なら、秘密の集落をいくつも知っているだろう。案内しろ」


 というわけだった。

 「殿下……頼みますよ」

 「ケチケチするな。金なら払うぞ」

 「いりませんよ……」

  シーキは村を案内しつつもビクビクと周囲を気にし、


 「……だいたい、私は殿下や魔王を『見知っているだけ』ということになっているんですから、こんな既知の仲であるとバレたら、反逆罪に問われかねません」


 「その時は、正式に聖下に帰依しろ。この国のどのような奴が刺客として現れても、命を保障しよう」


 「簡単に云わないでくださいよ……」

 苦い顔を見せつつも、シーキは内心で安堵している自分に気づき、嫌になった。

 (まいったなあ)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ