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第12章「げんそう」 4-19 脱出

 ほぼ不眠不休で進んだので、人間のパーティなら7日から10日はかかるだろう行程を3日で踏破し、


 「風穴だ! 出口だよ!」


 遥か上方に見えた光に、フローゼが叫ぶ。岩の隙間を通って、昼間の地上につながっているのだ。


 「ピオラ、通れるかい?」


 重戦闘モードさえ発動しなければ、トライレン・トロールは10日やそこらは、飢えに耐えられる。ピオラ、まだ・・元気だった。


 「狭いところは、ぶっ壊しながら登るさああ!」


 「それは。私がやろう、今は一刻も早く大公に合流して、あの魔王のことを報告しなくちゃね……」


 云うが、まだ巨大ナメクジみたいな姿のオネランノタルが、先に目のついた4本の触覚をひくひく・・・・と動かし、魔力を通して地形を探る。


 「途中と、出口付近が、ピオラが通るにはかなり狭いね……もっとも、途中の岩が出っ張っているとことは、フローゼにも狭いだろうけど」


 「なんでもいい、行きましょう!」


 岩盤が突き出ている土の壁をまずフローゼがよじ登り、その背中にオネランノタルが飛び移る。ピオラもその後ろに続いたが、岩盤がもろく、大量の土が崩れ落ちた。


 「チクショウ、地面が……!」


 ピオラの体重も我々の単位で云うと余裕で130kgはあるが、300kg近い鋼鉄の塊を背負っているので、なかなかうまく登れなかった。


 「つかまって!」


 フローゼが闇の中で手を伸ばし、ピオラがその手をしっかりと掴んだ。ペッテルの改修により、フローゼのパワーも格段に上がっていた。一息でピオラを引き上げ、岩盤に手をかけさせる。


 「うわ、ホントに狭いなあ」


 ピオラの大きな身体の肩や腰が、岩盤に引っかかる。太い鎖で背中に括り付けている必殺の多刃戦斧もだ。


 「ば、番人よお、ちょっとあたしにゃあ、通り抜けるのはむずかしいなあ」

 「オネランノタル、この岩の隙間は、私でもキツイかも!」

 上を行くフローゼも、最初の難関で行き詰まった。

 「分かったよ、私が道を作る!」


 軟体生物のようだったオネランノタルに右側5本、左側4本で計9本の節くれだった脚が現れ、フローゼの背中から岩の隙間に入るや、魔力で周囲を豪快に掘削。硬い岩盤もガリガリに削って、大穴を空けて行く。


 「ペッ、ペッペッ!」

 顔の上から大量の土砂が降ってきて、ピオラが辟易した。

 (番人めえ、もっとうまくやれよなあ!)

 思いつつ、孔の上の光が見る間に大きくなり、眼を細めた。

 「一気に行ける! ピオラも、続いて!」

 「応よおお!」

 フローゼに続いて、ピオラが孔をよじ登った。

 そして、光が視界にあふれた。

 「……どこだあ、ここはよお?」


 3人の中で、唯一生体的機構の「眼球」を持っているピオラ、光に慣れるまでやや時間を要した。


 「……神殿から、かなり離れてるみたい」


 フローゼも周囲を見渡してつぶやく。一面の荒野で、その只中に突き出ている複数の巨岩の隙間に、オネランノタルの空けた大穴が黒々と口を開いている。


 「番人はどこだあ?」

 「ここだよ!」


 上から声がして、見上げると、9本脚の巨大四つ目ナメクジに蝙蝠の翼が現れ、バサバサと風をつかんで空中を舞っていた。


 「ずっと向こうに、神殿が見えるよ!」


 云われてみれば、荒野の奥の地平線に、微かにあの高塀が見える……ような気がした。


 「なんでもいいやあ、大公のところに戻ろうぜえ」

 もう神殿に興味をなくしたピオラがつぶやき、フローゼも、

 「そうね、とっとと帰りましょう」

 そこへ、オネランノタルが下りてきた。

 「この穴は、いちおう、塞いでおくかい?」

 「確かに……余計な連中が入りこんで、あの封印魔王を刺激するのも……ね」

 「じゃ」


 云うが、空中でホバリングしつつ、オネランノタルが魔力を行使。過重力が巨岩群を襲い、洞窟ごと地面が数メートルも凹んで、埋まってしまった。


 「よおし、行くかあ」

 「フローゼ、道案内をしてよ」

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