第12章「げんそう」 4-11 魔毒針
「どうやって……」
そこで、オネランノタルが大笑い。
「何がおかしいんだ、この魔族!」
「さっすがピオラだね! なあに、魔物の倒し方なんか、大きかろうが小さかろうが同じだよ! 魔力の集まる部分(ストラの定義で云うところの、魔力子中枢器官)を破壊すればいいんだ! 大公だって、これくらいの魔物は倒すだろうね!」
「あの人はもう、人間っていう枠じゃないし!」
「私らだって、誰も人間じゃないじゃないか!」
そう云われて、フローゼも肩をすくめる。
「それもそうね」
「ようし、じゃあ、やってみようか!」
オネランノタルの四ツ目が、闇に魔力を映して光った。同時にピオラの目も真っ赤に光る。
それを確認した巨大魔竜も、ハエみたいに動き回る3人めがけ、全身から膨大な魔力をエネルギー化した光線やら弾丸やらを放った。
すさまじい音が轟き、闇に閃光が走って洞穴の壁を穿つ。
「こんなバケモノを置いて、何を護ってるんだろうね!?」
「そんなことより、作戦は!? 魔力の集まる場所って、どこなの!?」
「こいつの場合は……頭だね。そこに、君の御自慢の魔力阻害効果を叩きつけてやりなよ! 君はもう、魔物と魔族の天敵なのだからね!」
「分かった……! じゃあ、2人はあいつを引き付けて!」
「ようし、いくよ、ピオラ!」
オネランノタルは、あくまで楽しげだった。
「よっしゃああ、まかせとけえ! あたしは地面から行くう! 番人よお、降ろしてくれえ!」
降ろすも何も、ピオラは自分で魔力バリアの内側から飛び降りた。20メートル近い高さがあったはずだが、数百キロの大多刃戦斧を背負ったまま、鍾乳石だらけで針の山みたいな地面へ着地する。そのまま極太の鎖を手繰って戦斧を取り回し、右手に構えると鍾乳石を破壊しながら、巨大魔竜めがけて突進した。
「ううぉおおおぐるぅあああああああ!!!!!!」
魔法の武器でもある多刃戦斧は、魔物に対しては+150効果を発揮する。
さらに、すかさずオネランノタルが魔力を飛ばし、攻撃力を付与した。ただの1回で対魔効果がいきなり+800になり、まるで生き物のように斧が震え、あふれ出たエネルギーが陽炎となって視覚化された。
「……ぁあああああッッしゃあああるぁああああ!!!!」
闇に向かって闇雲に斧を振りつけたようにも見えるが、的確に巨大魔竜のどこかに突き刺さった。
+800ともなれば、生半可な攻撃力ではない。
自身でやっておいて、そのオネランノタルとて無事ではすまぬ。
脚をライフルでぶちぬかれたかのごとき衝撃が巨大魔竜を襲い、魔力の塊である身体にバシバシと稲妻めいた光とヒビが走って、地下空間中に咆哮が轟いた。
すかさず、上空からオネランノタルが恐るべき一撃を放つ。
云わば、魔力を固める毒だ。
魔族同士の戦いのために編み出した攻撃法で、これを会得してる魔族は少ない。が、魔物の中には、自然発生の段階で生まれながらの能力として持っている物がいた。オネランノタルはそれを知っており、自ら魔力操作術として開発した。
魔物は、他の生物で云う血液や神経伝達の代わりに、全てを魔力の流れがそれを行う。その流れを固めてしまう。
蛋白質凝固系と神経伝達阻害系の毒を合わせたに等しい、魔物にとっての猛毒だった。
(とはいえ、相手がデカすぎる……1発や2発じゃ、あんまり効果がないかもね!)
だったら、何十発も打つまでだった。
怒り狂ったスズメバチの猛攻めいて、オネランノタルが巨大魔竜に接近するや魔法の矢の要領で針のように鋭い魔毒を突き刺した。効果は覿面で、魔竜は絶叫を上げつつ対空射撃のように魔力より取り出したエネルギー弾を打ち放ったが、オネランノタルが針を打つごとにその数や威力が減り、動きも鈍くなった。
そこを、ピオラが多刃戦斧を振り上げ、滅茶苦茶に攻撃する。魔竜がドッと地面に崩れ、オネランノタルとピオラだけで倒してしまいそうな勢いだったが……。
「クソ、やっぱり!」
空中でオネランノタルが叫び、
「ピオラ、気をつけて! こいつ、魔力をどんどん補充してるよ!」
その声が、ピオラに届いたのかどうか。
「うおおおりぃゃあああ……!」




