第12章「げんそう」 4-9 二重封印
すなわち、謎の魔王に関する石板を発見した、遺跡の奥地の古代の祠のような場所である。
それは、少し坂になった洞穴を抜けた先に、ひょっこりと現れた。
「ここ」
後ろの2人が洞穴を抜けたのを確認し、フローゼがその場所を示した。
「ふうん……」
オネランノタルが、さっそく妙な魔力に気づき、祠(の、ような場所)に近づく。あくまで天然の鍾乳石が偶然にも祠のような凹んだ形状になった場所に、これは人工物の小さな石の板が置いてある。板には、かつて何か書いてあったようだが、長い年月で薄く鍾乳石に覆われ、乳白色の幕がかかっていてよく分からなかった。
射干玉の闇の中、オネランノタルが、あまりに真剣かつ詳細に祠を観察しているので、フローゼも興味を持ち、
「何か、分かるの?」
「うん……」
振り返ったオネランノタルの4つの目が、薄く光っていた。
「これは、自然にできたものじゃない。洞窟の石を、強靭な魔力でひん曲げて……なんか、こういう祭壇のようにしてある」
「え、どういうこと?」
「封印だね」
「封印!?」
フローゼが息をのんだ。
「じゃ……その、大昔の魔王の!?」
「そうじゃない。……と、思う。なぜって? そんな、魔王を封じるほどの魔力を使った痕跡は感じられない。でも、魔王に関係する『何か』を封じてるんだと思うなあ」
「何かって、何」
「分からないけど、二重封印だ」
「二重……封印……」
「そして、封印は最近、一回解かれてるよ」
「は!?」
さしものフローゼも、ギョッとして固まった。
「どういうこと!?」
その驚愕と焦燥の意味を理解しているオネランノタル、
「大丈夫だよ、君らが持ち去った石板とは関係ないさ」
ホッとして、フローゼ、
「じゃ、誰が封印を解いたって云うの?」
「封印されたヤツだね」
「ええっ……!?」
「だって、内側……向こう側から解かれているもの」
「向こう側から!?」
にわかに、フローゼが緊張を高めた。
「じゃ……ま……魔王が……!?」
「いや……魔王の手下だね。私たちみたいなものだよ」
「なんでわかるの!?」
「もし魔王だったら、こんな封印、大穴が空いてるだろうよ。ストラ氏は除いて……魔王ってのは、本来それほどの魔力量さ」
フローゼは、ややあっけにとられていたが、
「で、でも、魔王を封印しているほどのものを、手下が破れるものなの?」
「そこが、私もちょっとよく分からないんだけど……逆に、手下程度だから、封印の隙間を通れたのかも。魔術式による『封』ってのは、綱や網で雁字搦めにするようなものでね。魔王ほどの存在に封を施すのに、あまり細かいもので縛ってもねえ」
「はあ……」
魔術的なことはよくわからないフローゼ、分かったような、よく分からないような……といったところだった。しかし、それは我々の概念でいうと、重機を固定するには鋼鉄のワイヤーが必要であり、ナイロンの漁網などではどうにもならない。
「あ、でもそうか、それで、あんな、異郷の魔物がいたってわけか……」
オネランノタルがそう納得し、そこでフローゼも意味が分かった。
「なるほど……地の果てに封じられた魔王が、その手下と一緒に向こうの魔物を送りこんできたってことか」
「そういうことだね!」
「この封印の場所を護るために?」
「たぶんね」
「て、ことは……手下はいま、ここにいなくて……いない間に、誰かに近づかれたら困るんだ」
「御明察!」
「面白いじゃない」




