第12章「げんそう」 4-7 洞窟の先に
「じゃ、あいつらは世界の果てから来てるってことなのかい?」
「そうなるのかもね。でも、誰がどうやって、なんのために?」
「まったく分からないね!」
「それに、あんなに群れを作ってなかったし、そもそもあんなに素早く動かなかった」
「誰かが魔術的に、改造した? それとも、別種かな?」
「それこそ、分からないけど」
しゃべっているうちに、唐突に大回廊は終わりを迎えた。
「行きどまりかい?」
オネランノタルがそう云って、不思議そうにフローゼを見た。フローゼが前に出て、行きどまった岩がむき出しの壁に手を当てて、
「一見、行きどまりだけど、こっちとこっちに、隠し通路が」
「ほんとだ、死角になってる。人間らが明かりで照らすと、錯覚で見えないんだ。考えたね!!」
大回廊の行きどまりの岩壁の左右の死角に、細い抜け道のような通路があって、歪な丁字路になっている。
「で、どっちに行くんだい?」
「ところがどっこい、これはどちらも迷宮をぐるぐる回るだけの罠で、正解はこっち」
フローゼが指さしたところは、床に近い低い場所で、岩がくりぬかれて狭いトンネルになっている。
「いつか、誰かが掘った隠し通路の入り口。この岩壁の向こうに、洞窟のような通路が続いてる」
「これ、ピオラは入れないんじゃない?」
オネランノタルが、闇の中に立つピオラを振り返ってそう云った。
「あたしはなんとかなっても、こいつが無理だろなあ」
ピオラが、極太の鎖で背中に背負っている多刃戦斧を後ろ手に叩いた。
「あー、そうかも。どうする?」
フローゼにそう云われたオネランノタルは、既に魔力で岩の向こうの隠し通路を探知していた。ストラほど正確ではないが、魔力に満ちたこの世界にあって、オネランノタルほどの上級魔族であれば、そういう藝当もできる。
「まかせてよ。どいて」
岩壁の前に立っていたフローゼがピオラの横に下がると、オネランノタルが再び魔力の直接行使で「分解」効果を発揮! 発破でもかけたように、一瞬で分厚い岩壁が砂のように崩れ、高さが約2メートル、幅も2メートルほどのトンネル状の大穴が空いた。
「さっすが」
フローゼが目を丸くし、ピオラも右拳で左手を打った。
岩壁を形成していた岩盤は厚さが数メートルもあり、その奥に天然の洞窟が続いている。鍾乳洞だ。
「このすごい奥に縦穴があって、さらに地下に行くから。そこからいろいろ分かれ道のある洞窟を、前は2日くらい進んで、行きついた先に祠というか、岩をくりぬいた大昔の礼拝所のような場所が。そこに、無造作に石板が立てかけてあった」
「その石板、その場で解読したのかい?」
「私はよく見てないけど、魔術師がスラスラ読んでいたから、魔術文字か、昔のチィコーザ語か帝都語だったんじゃないの? 知らないけど」
そもそもフローゼは、勇者一行の目的がその石板とは知らされておらず、もっと先へ行くと思って周囲を探索していた。すると、いきなり勇者が戻ると云い出し、パーティの仲間も異議を唱えなかったので、そのまま帰還したのだ。
「私は最初から手伝い……傭兵だったからね」
「なるほどね。じゃ、まずはそこまで行ってみよう」
「分かった」
再びフローゼが先導し、3人が魔術で開けた穴を通って洞窟に入る。ピオラには少し天井が低く狭かったが、幅は充分にあった。
そのまま、数時間も歩いたころ……。
「?」
フローゼが、ふと立ち止まって手を出した。
(行き止まり……?)
洞窟が、途中で止まっている。壁が現れたのだ。とうせん、以前はこのようなものはなかった。何者かが、侵入者を防ぐために築いたのだ。
「な……なんだろ」
触ってみたが、感触的に岩ではなかった。かと云って、人工物でもない。しかし、どうせまたオネランノタルがどうにかするだろうと想い、振り返った。
「気をつけなよ、フローゼ」
むしろ楽し気に、オネランノタルが云った瞬間。
壁が幾何学的に割れ、隙間から出現した多数の触手がフローゼをとらえて引きずりこんだ。
「おわああ、なんだあああ!?」
ピオラが、驚いて身構える。




