第12章「げんそう」 4-6 ゾールンの魔物
「だが……ゾールンの魔物を、倒せるほどか……?」
騎士の1人が、眉をひそめて仲間に向けてつぶやいた。
「分かりません……とにかく、陛下に報告を……!」
「そうだな。ここは、どうする?」
「2人、残ろう。私と、グレニチャコルだ。ギーエル」
「ハイ」
「お前、村に戻って、王宮に向けて緊急伝達魔法を飛ばせ。それから、増援を率いて戻ってこい。明日の朝まで、戻ってこれるか?」
「造作もないこと!」
若い騎士が胸に手を当てて敬礼し、馬に飛び乗るとゴーレム兵を残して村に戻った。
それを見送って、2人の騎士が改めて神殿の床に開けられた大穴を見やった。
「いったい何者が、わざわざ封印を破壊して侵入したんだ……!?」
そう。
この厳重なる封印は、ばかが遺跡に入りこむのを防ぐ目的と、突如として遺跡に出現した強力な魔物たちを外に出さないためのものだったのである。
オネランノタルが放った攻撃は、巨大石像ゴーレムとその背後に迫っていた謎の魔物群を一掃した。陽炎が立ちのぼり、あのアメーバとクモを合わせたような魔物の燃えカスが、回廊の床や壁にこびりついていた。
進行方向より現れた巨大な石像と魔物群は排除され、見た感じに障害はない。
しかし輻射熱がまだ回廊に残り、一帯はまるで巨大なピザ窯めいている。
「行きましょう!」
フローゼが納刀し、炎が消えたので再び場が暗黒に支配された。
「あたしにゃあ無理だよお」
熱に弱いピオラが、顔をしかめた。フローゼが機先を制されて、
「ちょっと、オネランノタル、なんとかならないわけ?」
「もちろん、なるとも」
云うが、今度は魔力を使用し急速冷凍で回廊の熱を奪った。一気に冷凍庫のようになり、回廊を構成する石材に、バシ、バシッと亀裂が走った。
「これでどう? ピオラ」
「これならいい! さっすが番人だあ」
「じゃ、今度こそ、行きましょう!」
3人が、一気に回廊を進んだ。
とたん、急激な高温と低温にさらされた石材が砕け、回廊が崩落した。
しばらく大回廊が続いたが、強力な魔物は出現せず、散発的にあのクモとスライムを合わせたような未知の魔物や、同様の形状をした大型(体長が3メートルほど)のやつ、土中深く棲息する巨大な肉食ワーム類が襲ってくるだけだった。それらは、3人にとって敵でも障害でもない。
「なんだったんだろう、さっきの」
小走りを止めて、少し余裕をもって歩きながらフローゼが、先ほどの戦闘を振り返った。
「なんだった……とは、どういう意味だい?」
オネランノタルも低く飛翔するのをやめ、着地して歩いている。2人の後ろを、大柄なピオラが背後を警戒しつつ歩いていた。それぞれ歩幅が異なるが、うまく合わせている。
「石像の怪物はいいとして、あの大量にいた魔蟲、全く出てこなくなった。ということは、さっきの群れが異常だったってことじゃ?」
「そうかもね」
「どういうことだろ?」
「あの石像が、何者かが侵入者撃退のために置いたとしたら、あの妙な魔物の群れも、同じヤツが配置してた可能性があるだろうね」
「なるほど」
フローゼが感心する。
「でも、あんなのは、前はいなかったんでしょ?」
「いなかった。見たことない」
と、フローゼ、唐突に思い出した。
「あ、ウソ。見たことある」
「え? どこでだい?」
真っ暗闇の中だが、オネランノタルが四つ目でフローゼを見やった。
「ここじゃない。もっと、ずっと遠く……そして、昔……」
フローゼの脳裏に、明確に記憶の映像が浮かんだ。
「ペッテルの仇敵だった魔族を倒した……世界の果ての、密林の奥……そこで、見たな」
「ええええ!?」
オネランノタルも驚いた。
「全くおんなじやつだったかどうかわからないけど、似てた。クモみたいなアシがあって、でも体は、あんな感じのブヨブヨというか、プルプル。そして、体全体で獲物を溶かして食べてた。うん、間違いない」




