第12章「げんそう」 4-3 迷宮へ突入する
「それより、この小山はなんなんだい?」
壁の崩れた廃神殿の内部を含め、視界に入るだけでも大小6つもの「小山」が、地面の上に形成されている。高さは3~4メートル、大きさはまちまちだが、大きいものでは幅が10メートルほどもある。
「あの塀とおんなじで、カッチカチだぞお。石みてえだあ」
ゲンコツで叩いて、ピオラが云った。
「同じ材質でできてるってこと?」
フローゼがオネランオタルにそう尋ね、
「そうなんだろうね。で、前に来た時、こんなものは?」
「無いに決まってるじゃない。あの高塀を作ったときに、いっしょに作ったんじゃないの?」
「何のためにだい?」
「知るわけな……」
そこまで云って、フローゼが息を飲んだ。
「ちょっと待って。分かった。これ、今までに冒険者が侵入した出入口を、全部つぶしてるんだ」
「穴を、ってこと?」
「そう。思い出した。これまでの冒険者が掘った穴や、以前、私らが拡張して地下に侵入した場所は、神殿内のあそこ……でも、この石みたいな素材で埋められてる。でも、どうやって? 魔法で石を柔らかくして? そんな魔法、あるわけ?」
「なるほどね……」
オネランノタルが、4つ目を細めてうなずた。
「たぶん魔法じゃないよ。魔力の動いた痕跡がない。きっとこいつは、元は泥みたいに流動的で、こうやって穴を埋めたり、塀に形成したりしたのちに、カッチコチに固まるんだ」
「魔法じゃないのに、そんなことが?」
「きっと、あるんじゃない? 世の中、知らないことでいっぱいさ」
オネランノタルは、ストラやルートヴァンとの出会いでそれを痛感していた。
「だから、旅に出たんだ。ストラ氏にくっついてね」
「私は、もう何十年も世界中を旅してるけど、こんなの見たことない」
「たまたま、そうだったんじゃないの?」
「そうかもしれないけど……」
「そんなことより、これどおすんだあ? また番人がぶっ壊すのかあ?」
ピオラが小山を蹴りつけながら、腰に手を当ててつぶやいた。
「これをさっきみたいに壊したら、せっかく堀った穴が埋まっちゃいそう」
フローゼが、オネランオタルの破壊した塀を見返してそう云う。
「冒険者の空けた侵入者用の穴ってのは、狭いのかい?」
「そうねえ。1人ずつ入ったから、狭いかも」
「でも、地下空間は広いんでしょ?」
「広いっていうか、やけに天井が高かった記憶が……ピオラでも、余裕で動き回れると思う」
「でも、そこに侵入する穴は狭い……と」
「遺跡に隠された地下迷宮なんて、たいていそんなもんじゃな……」
フローゼがそこまで云ったときには、もうオネランノタルが魔力を使っていた。
ただし、塀を破壊したような「爆破」ではない。
ノロマンドルで、ペッテルのいたスヴェルツクに向かう途中の「魔の森」で襲撃してきた魔物をルートヴァンが「分解」したように、オランノタルが廃神殿の内部に盛り上がる小山の1つへ「分解」を食らわせる。
とたん、小山ごと砂山が崩れるように音を立てて地面が陥没し、大きく深い穴が出現した。
3人が駆け寄り、暗闇の中を覗きこむ。
ちなみに3人とも(それぞれ異なる原理で)闇を見通せるので、明かりは必要ない。
「うひゃあ~、なにこれ……」
あきれて、フローゼが声を発した。地下3~4階ほどまで貫通しているように見える。
「よおし、とっとと行こうぜえ。なあんか、集まってきてるしよお」
誰もいない周囲を見やって、ピオラもつぶやく。トライレン・トロールの超感覚が、大急ぎで廃神殿に向かって疾走する「何か」の気配を掴んでいた。
「ここを警護する敵ってこと? 魔法の警報で気づかれた?」
フローゼが、オネランノタルに尋ねた。
「うー~ん……ちょっとまだ、私にも分からないな」
「そうなの?」
距離的、濃度的に、魔力の動きをまだ察知できない。
「まあでも、そうなんじゃない? きっと、魔力で動く兵士だよ」
ゴーレム軍というわけだ。
「いま地下に向かって、挟撃されない? ここで迎え討ったほうが?」
「人間が作った魔力兵なんて、この3人の敵じゃあないよ。追いつかれたら、その時に地下でつぶせばいいじゃないか」
オネランノタルが、そう云って虫の声みたいな甲高い笑い声を発した。フローゼもニヤッと笑い、
「それもそうだ。行きましょ。案内する」




