第12章「げんそう」 4-2 コンクリート壁爆破
「分からないね!」
我々の世界でも、近代コンクリートが発明されたのは産業革命のころだが、古代コンクリートは紀元前からある。それこそ、古代ローマの巨大建築物はコンクリート製で、崩れているとはいえ、2000年後もその威容を伝えている。
「かなり硬そうだけど……破壊できないわけじゃなさそうだよ」
オネランオタルが4つの眼で塀を間近に観察して、断言した。
フローゼも慎重に右手で塀をなぞりつつ、
「封印って云うなら、魔術的防御は?」
「痕跡はあるけど、警報ていどじゃないかなあ」
「じゃ、誰か警護している者がいるってこと?」
フローゼがそう云って、周囲を見渡した。
「見る限り、一面の荒野だけど」
「人間じゃないだろうね。こんな場所に、騎士だの兵士だのを駐屯させるのは、難しいんじゃない?」
「暮らすのも、大変そうだしね」
フローゼ、肩をすくめて口をひん曲げる。
「どうやって壊すんだあ、番人よお」
ピオラに云われて、オネランノタル、
「やってみるよ、ちょっと離れてて」
2人を下がらせる。
「ところで、なんで『番人』なの?」
先日から、ピオラがオネランノタルを呼ぶ際にずっと「番人」というのが気になっていたフローゼ、ふと、尋ねる。
「だって、彼方の閃光の番人だものお」
聴いた私がバカだったと、フローゼが肩をすくめた。意味が分からない。
「いくよお!」
オネランノタルが、自身の潜在魔力と、自然界に満ちる濃厚な魔力を集中した。人間やエルフは、この魔力(ストラの定義では、膨大なエネルギーを内在させた未知の超素粒子「魔力子」(仮称))から当該世界独特の「術式」を経由してエネルギーを取り出し、様々な「効果」に変換する。しかし、魔物(魔族を含む)や超上級魔術師は、術式をすっ飛ばして魔力から直接エネルギーを引き出す。従って、効果の発動までケタ違いに速く、また取り出すエネルギーもケタ違いだった。何故かというと、詳細な理論はストラにも未解析で、現地の人々にも現象の観測しかできていないのだが、術式の発生と作動に該当魔力の有するエネルギーの5~8割方を奪われるためである。
従って、同等の魔力消費量でも、理論上魔力の直接行使法は術式法の数倍の威力を得る。
云い換えれば、同程度の効果の場合、消費魔力は数分の一となる。
オネランノタルが灰色の壁をその4つの目で睨みつけただけで、厚さ1メートル近い頑強なコンクリート製の塀の一部が、対戦車ミサイルでも食らったかのように一点集中で爆破され、威力が貫通して、大型の竜でも通り抜けられそうな大穴が空いた。
「スゴッ」
衝撃波に赤い髪をたなびかせたフローゼが、素直に感嘆した。
この世界の住人にとって「爆破」は、ほとんどが燃焼爆発の概念で、火珠の魔法も爆発するのはそれだ。というのも、この世界の石造りの家や、城門などもその程度で容易にぶっ飛ぶので、それで充分であり、かつそれ以上の発想がなかなか出てこないのだった。
が、トーチカのような強度を持つコンクリートの壁を爆破するには、ただの火珠では不可能だ。それこそ、中規模クラス核ミサイルの爆破の衝撃でも、厚さ1メートルのコンクリは破れないだろう。
そこは、地中貫通爆弾のような貫通爆破効果が必要で、術式でそれを行うには、とんでもない複雑さと詠唱時間の「呪文」が必要だが、魔力の直接行使ではそれが「思考」で行える。
まして、準魔王級の魔力を持つオネランノタルであれば、これしきの破壊活動は余裕であった。
「よし、行くぞお!」
まだ白煙と細かい埃が立ち上る中を、ピオラが先陣を切って崩れた塀につっこむ。
「ちょっと、アンタ、不用心に……気をつけてよ!」
続いてそう叫びながらフローゼが歩を進め、殿オネランノタルがテコテコと小走りで瓦礫の上を歩いた。
「でも、よく考えたら、番人が魔力であたしらを宙に浮かせて飛び越えればよかったよなあ」
廃神殿の敷地内を見渡しながらピオラがそう云ったので、フローゼが驚いた。
「なにそれ! そういうことは、早く云いなさいよ!」
「おんなじだよ、飛び越えたところで、警報は鳴ってるさ」
後ろから追いついたオネランノタルが、そう云った。
「そうなの?」




