表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
672/1279

第12章「げんそう」 3-6 正統の証

 ジェストルが涙目にも諦観と怒りを混ぜた表情で、両脇を掴まれたままムーサルクと対峙した。


 「……なにをしたのだ、偽ムーサルク」

 「黙らんか、この……!!」

 ゴドゥノがそう怒鳴りかけたが、

 「静かにせよ」

 ムーサルクに云われ、ピタリと黙った。

 「貴様は、魔術師か。閣下の兵や、騎士までもこのように……」


 「私は、魔術師ではない。私に着き従ったのは、全て正統王家を信じる正義心からだ」


 「私や閣下には、その正義は無いというのか」

 「そうなるであろう」

 「ふざけたことを……!」

 ジェストルが怒りに顔をゆがめてすぐ、むしろ微笑みを浮かべ、


 「……殺せ、今すぐにだ。国王陛下と騎士団が、貴様など八つ裂きにするであろう」


 「その国王が、かつて我が王位を簒奪した大罪人であるのだ」


 「ばか・・をぬかせ。仮にも王家末裔を名乗るのならば、チィコーザの伝統を知らぬわけではあるまい。かつてナイファール王子に子はいなかったし、いたとしても庶子か何かの、表にできない赤子だったはずだ。その子孫とやらがいまさら何をしようと、正統なわけがない」


 「正統の証は、これだ」

 またムーサルクが軽く右手を上げ、戦士が小箱の蓋を開けた。


 再び箱の中の袱紗のような熱い布に鎮座する「冬の日の幻想」が真っ白い光を放ち、ムーサルクの後ろに控えていたホーランコルらも眼を細める。


 その光はすぐに納まり、宝珠は巨大な真珠めいた光沢と光彩を放つ美しい珠に戻ったが、


 「どうだ、守備隊長よ。これを見ても、まだ余が正統ではないと?」

 「とんでも御座りませぬ!」


 ジェストルが両脇をつかむ手を振りほどき、気力充実の様子で胸に手を当てて片膝をついて平伏した。


 「ムーサルク様こそ、真に真なるこの国の王! その宝珠の輝きこそが、全てを物語っております! 今、この時よりこのアーロン・ジェストル、ムーサルク様の忠実なるしもべ・・・として、全身全霊を持って御仕え致しまする!!」


 その言葉に、ゴドゥノを含めた元からのムーサルクの配下や、伯爵兵や騎士までもが歓声を上げ、歓迎した。


 「よくぞ云った、ジェストルよ。さしあたって、今より新たなシャスターク伯爵を任ずるが、その者に側近としてよく仕え、余を支えてくれ」


 「仰せのままに!!」

 ジェストルが立ち上がり、横に控えると、

 「ゴドゥノ」

 「ハハア!!」


 「余の蜂起に際しいち早く参集し、最も余を信じ、よく仕えている。お前を、新たなるシャスターク伯爵に任ずる。このシャスターの町とシャスタークの地を、よく治めよ」


 「有り難き幸せ!!」


 拍手が沸き起こり、寝返った伯爵兵や騎士は次々に新伯爵に忠誠の礼をとった。


 そのすぐそばには、いまさっき自決した伯爵家の人々の遺体が転がっている。


 驚きを通り越して呆れ果てて互いを見合ったのは、ムーサルクの後ろの傭兵たちであった。


 「一体全体、何がどうなって……?」


 「なんで、オレたちはあの光を見ても、何も起こらないんだ? 傭兵だからか?」


 「こいつ……かなりヤバくないか?」

 「いつまでも雇われてて、大丈夫か?」


 傭兵たちは互いに見合って、喉まで出かかっているそれらの想いを、グッと飲みこんだ。

 


 その夜……。

 伯爵の屋敷にゴドゥノとムーサルクが入り、傭兵たちも宿舎から移った。

 が、10人ほどの傭兵が、その夜のうちに恐れをなして脱走した。


 町中の兵士たちの死体や、自決した伯爵家の遺体は兵士たちがどこかへ運び去った。郊外に穴を掘って、捨てるのだろう。


 シャスターの町に人々も、こうなってはどうしようもなく、押し黙ってまず推移を見舞っている。


 ホーランコルらは、慎重に盗聴を警戒しつつ、全てをルートヴァンに報告した。もっとも、


 「大丈夫だ、この魔力通話を盗聴できるほどの凄腕の魔術師が、そうそういるとも思えない」


 「はい」


 連絡用の魔力の小竜を介しての通常会話であれば、ガフ=シュ=インでシーキが行ったように専用の魔法の道具マジック・アイテムで盗聴は可能だ。が、魔力通話ともなると、厳重に防衛された専用回線での秘匿通信に近く、術者であるルートヴァンの設定した魔力の振動数(我々の概念だと周波数に近い)を割り出して、ぴったりと合わせなくてはならない。また、振動数は会話中でも常に変動している。


 「とはいえ、小竜の魔力を探知し、何者かが魔力通話で何かしらの連絡を取り合ってること自体は、気取られているかもしれんがな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ