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第12章「げんそう」 2-9 鳩小屋

 「チィコーザの!? ルーテルさん、いつの間にそんなヤツと知り合いになってたんだよ!?」


 「最初は、ホーランコル達の案内人をしていたんだ。ホーランコルやキレット達を一目見て、なにかウラがあると看破した諜報の凄腕さ。会ったのは、初めてだが……よく分かったな。さすがだ」


 「褒めても、何も出ませんよ、殿下」

 シーキがそういって苦笑。そして真面目な顔となり、

 「殿下、御願いがあって、あえて接触しました」


 「そうだろうな。黙って僕らを報告するのが、お前の任務のはずだ。こんなところを仲間に見られでもしたら、ただではすまないのではないか?」


 「こんな冬の街道筋、私や殿下方のような訳アリ・・・以外、めったに通りませんよ」


 「願いとは、なんだ?」


 「この国で、魔王と魔王の戦いは止めていただきたい。ガフ=シュ=インのようには、したくありません」


 シーキの懇願するような顔を見やって、ルートヴァン、ニヤッと笑って、

 「チィコーザに、魔王がいるとは初耳だが」

 それには、シーキが驚いて目を丸くする。

 「えっ、いないのですか!?」

 「そのはずだが」

 「で、では、皆さんはどうしてチィコーザに!?」


 「大昔は、いたらしいのだが、いまはいないそうだ。その、大昔にいたという魔王の情報を、探索しに来たのだ」


 「大昔……って、どれくらいですか?」

 「700年ほど前らしいぞ」

 「700年前ですって!?」

 「その様子では、何も知らないようだな」

 「知りません! 知りませんとも……」

 動揺を隠さず、シーキ、息をのんで、

 「でっ、では、その大昔の魔王はいま、どこに……!?」


 「それを知りたくて、来ているのだ! チィコーザ王家が消えた魔王の情報を開示してくれるのなら、すぐにも出て行くぞ。国王に、そう報告しておけ」


 「い、いや……そんな……!」

 まだ狼狽うろたえるシーキを尻目に、ルートヴァンが歩き出したので3人も続く。

 いや……ストラだけ、立ち止まってシーキを見つめていた。

 「……?」

 そこでシーキは、初めて・・・ストラを認識した。

 「ど……どうも……」

 こんな剣士? いたか……? という感じだった。全く気配がない。


 (あ、あれっ? ちょ、ちょっと待て……なんだ? どうして、この女はこんなに影が薄い・・・・……存在感がないのだ? な、何者だ……!?)


 事の重大さに気づき、気温とはまた別に背筋がうすら寒くなったその時、ストラがバッと両手の日の丸のセンスを開いたので、シーキがビックリして立ちすくんだ。


 「た……」


 「まああああ~~た、ストラの旦那あああ~~~~ほら、さっさと行くでやんすよおおお~~~しっかりしておくんなまし~~~~」


 プランタンタンがそう云って、ストラの手を引いて歩き出したので、ストラはそのままシーキを置いてルートヴァンらに合流した。


 シーキが、唖然として5人を見送った。



 とにかくシーキは、うすら寒い空気の中で一行が点のように小さくなるまで黙然と見送ったのち、逆方向のノロマンドル側へ向かって毛長馬リャドフを飛ばした。


 連絡用の伝書鳩(正確には、我々の世界の鳩に匹敵する未知生物の鳥に近い生き物で、便宜上、鳩とする)を整備している一番近い村が、その方向にあったからだ。


 半日後、夕刻近くにノロマンドル側の宿場町から少し離れた、郊外の寒村というにふさわしい辺鄙な村に入ったシーキは、すぐそこらにいる村人に独特のハンドサインを出した。


 村人らも勝手知ったるもので、予め決められたサインでシーキを特務の穴熊ルルードと分かり、黙って「鳩小屋」まで案内する。小屋はよく管理され、かつ巧妙に隠されていた。


 村人の用意した明かりの下、シーキは小さなフルトス紙に何やら特殊な細いペンで急いで書きつけると、紙縒こよりにして「鳩」の足環に入れ、その鳩を放った。


 すぐにシーキは村を出て、今度はゆっくりと王都方面に向かって進み、ルートヴァンらの後を追った。村に入ってから出るまで、シーキも、村人らも、いっさい無言だった。


 出城や関所には魔術師が常駐し、伝達魔法が使えるが、穴熊ルルードの極秘任務では魔法が使えない場合も多く、こういう施設が王国中にあるし、外国にすらあった。また、伝達魔法を習得している魔法戦士をスカウトし、騎士にしている例もある。

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