第12章「げんそう」 2-7 ウルゲリア以来の、メンバー
それを見てプランタンタン、
「仲がいいでやんす」
と、しか思わなかった。
ちなみにフローゼはペッテルの言語翻訳魔術により、よほどの未開言語以外は自動翻訳対応している。それはトライレン・トロール語も例外ではない。
「では、ここで別れよう。頼んだぞ、3人とも」
黒い塊の2人がそろって手を上げ、腕を組んでふてぶてしくソッポを向いていたフローゼも、
「……グリーケルは、ここから南東に向かって荒野を歩いて、10日以上かかるから」
「では、まず10日後に連絡を。オネランノタル殿」
「分かったよー~」
云いながら、さっそくオネランノタルが子供みないたに荒野へ駆けだした。
「ちょっと……! 待てって、この! 行く先、分かってんの!?」
「よくしらないねえー~ー~」
「クソ魔族が!」
フローゼも、小走りで後を追った。
最後にピオラが明るい大声で、
「じゃあ、大明神サマあ、大公よお、みんなあ、ちょっと行ってくらあ!」
そう云いながら、いつも通り殿を務める。
「行っちまったでやんす」
見送ったプランタンタンが、少し寂しそうにつびやいた。
「なに、あの3人を倒す敵など、魔王以外にいないよ。さ、僕らも行こう。久しぶりに、5人の旅だ」
ウルゲリア以来の、メンバーだった。
「あの時は、馬車があったでやんす」
「ま、今回はゆっくり行こうじゃないか。ちょっと、寒いがね」
ルートヴァンが歩き出し、一行も続いた。
さて……。
イリューリ王の命令でノロマンドル国境警備を厳にしてより、5日が経過したが、魔王らしき一行がチィコーザに入国しようとしているという情報は王匡に届かなかった。
(おっ、緊急魔力伝達だ)
宿場町や近郊村に泊まりながら街道をゆっくりと進むルートヴァンが、曇天の低く垂れこめる北方の暗い空を見やって、魔力の塊が行き来するのを確認した。
(フ……どうせ、国境沿いを固めたはよいが、怪しい者どもが一向に現れないのを報告しているのだろう……一歩、遅かったな)
道端のルートヴァンがニヤニヤしているころ、王宮ではイリューリ王が表情険しく、
「穴熊からも、何も報告がないのか」
全騎士団統括の強大な権限を持つ、58歳になるアーレンス公爵が、
「ハ、ズィムニン卿からは、今日現在、未だに……」
「そやつ、寝返ったのではあるまいな」
「まさか……! とは、思いますが……なんとも」
「穴熊を増やしておけ。ズィムニン卿を探させろ」
「畏まりまして御座りまする」
「偽ムーサルクはどうなった」
「シャスターク卿により、既に討伐されている頃かと」
「憶測でものを云うほど、楽観的な状況ではないはずだぞ」
皺と太い眉の奥からギョロリと睨まれ、アーレンス公爵、
「申し訳も御座りませぬ。いますぐ、確認を」
礼をしながらそう云い、振り返って右手を上げると、配下の者がすっ飛んで行った。
「東に偽ムーサルク、西にイジゲン魔王……! もたもたしていると、取り返しがつかなくなるぞ。相手は、あの老獪王御自慢の小賢しい孫王子だ」
「ハ……」
「網を張ろうにも、張る場所すら分からんのでは、対処のしようもない。先に張られる前に、やりやすいほうから片付けろ」
「では、走竜に出撃を命じまする」
「そうしておけ。既にシャスタークが勝っていればそれでよし、万が一にも取り逃がしてるようでは、走竜に討たせろ」
「了解致しました」
アーレンス公爵が、深々と礼をして下がった。
その、ズィムニン卿ことシーキである。
数年ぶりに戻った帝都の宿屋で休んでいた(存在自体が秘匿されている第6騎士団には、宿舎すらない)が、イリューリ王の勅命を受け、すぐさま出立した。
しかし、知っているのはルートヴァンだけ……しかも、声だけで、ストラもプランタンタン達も知らない。
必然、声だけを頼りにルートヴァンを探すこととなった。




