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第12章「げんそう」 2-6 勇者を超える

 「どういう経緯で、そうなってるんだよ!?」


 「たまたま・・・・とのことだが……フフ、これが聖下の眼に見えない御力だ。持っておられる・・・・・・・のだ。運というにも烏滸がましい、超絶的に絶対的な、運命のようなものをな」


 「なるほどね、その偽王子と手を結んで……まず、チィコーザを混乱に陥れるってわけ。その隙に、魔王の情報を?」


 「もちろんそうだ。それに、フフ、聖下を奉じて軍をあげるヴィヒヴァルンにとって、最大の障壁はチィコーザだろうからな。その前の情報収集と下準備だよ」


 「いくら魔王に強力するったって、私はそんなこと、するつもりもないけど」


 「それは僕の仕事だ。だから、お前さんは謎の魔王の情報探索に専念してもらう。ここで別れ、前にその魔王の情報の刻まれた石板を見つけたという……ナントカという廃神殿を、もう一度探索してみてくれ」


 「もう一度?」


 「チィコーザがペッテルを消そうとしたということは、石板は王政府の手に渡っていると観ていい。もう一度訪れ、王政府によって厳重な警護や防御が施されていれば、まだ何か重大な情報が眠っているのだろう。それを突破し、探索しろ。以前のままだったら、特にめぼしい情報はないのだろうが……とにかく、探ってみてくれ」


 「了解」

 「ピオラと、オネランノタルを連れていけ」

 「はああ!?」

 フローゼが、燃えるような赤い眼をひんいた。

 「冗談でしょ! 1人で充分だって」

 「チイコーザを侮るな。どのような罠を張っているか……」


 「ペッテルが私を直してくれたときに、かなり強力にしてくれたんですって。それも試してみたいし、1人で大丈夫」


 「頑固な奴だな……」


 ルートヴァンが、期待せずもチラッとストラを見やった。いつもボーッと突っ立って、下手をすれば痴呆老人めいてプランタンタンに手を引いてもらって歩いているストラだが、その時は腕組みのままフローゼを凝視していた。


 「う」


 フローゼはくれぐれもストラの云うことを聴くようにペッテルに念を押されていたし、戦って手も足も出なかったのも知っている。直接の記憶はないが、目が覚めたら、修理のために自分が首だけになっていて、ストラに片手でやられたというのだから。


 「……」

 ストラの無機質な視線に、さすがのフローゼもひるむ。

 バッ、と、ストラが日の丸扇子を開き、

 「3人で」

 と、だけ云った。

 「あっ、ハイ」

 思わずそう答えたと同時に、


 「だあいじょおぶだよお、自分のことは自分でするからさあ! 足手まといには、ならないよお!」


 ピオラが真っ黒い巨大なカーテンゴーストのような姿のまま、バシバシとフローゼの肩を叩いた。


 「それに、私がいれば、いつでも大公と連絡が取れるからね! イイッヒヒッヒッヒヒ~~~~!!」


 オネランノタルも、踊るようにして真っ黒い姿で両手を上げる。

 「遺跡探索だなんて、人間の冒険者みたいだなあ! たっのしそおー~ー」

 「遊びじゃないんだぞ、このふざけた魔族が!」

 思わず、フローゼが目を吊り上げて怒鳴ったが、


 「遊びみたいなもんだよ~、私にとってはね! 暇つぶしで、ストラ氏にくっついてるんだから!」


 「なん……!!」


 フローゼが絶句し、ルートヴァンを見やった。ルートヴァンがいつもの不敵な薄ら笑いで、


 「魔族とトロール、うまく使ってみせろ、フローゼよ。単なる勇者を、超えて行け」


 「なあ……!?」

 フローゼが、仰天してルートヴァンを凝視した。

 そして、プイと視線をそらし、

 「何を云ってるの……!」


 そんなフローゼの肩を、またバンバンと叩いてピオラが漆黒のフードの下で笑った。


 「なんなの、馴れ馴れしいなあ!」

 「よろしく頼むよお、勇者サマよお!」

 「うるさいな!」


 眼をむくフローゼを見やって、オネランノタルが虫めいてケタケタケタと笑ったので、フローゼが本当に虫を追い払うように手を振った。

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