第12章「げんそう」 2-5 三手に別れる
ので、6人のうち4人がヴィヒヴァルンの身分証、ペートリューがリーストーン、フローゼは当然ながらノロマンドルの身分証を有している。
5人組の商人を先に通して、続いて城内に通されたストラ達は、兵士に身分証を渡して審査を受けた。
「ほう……」
意外にしっかりした身分証を出されて、兵士たちも感心する。
と、いうのも、やはり半分盗賊のような素性の悪い冒険者は、身分証等も持っていないか偽造品なのである。そう云った場合は袖の下で関所を通るのだが、例えば国王から国境管理厳格化の指令が来ると、そうも云っていられなくなる。
「さて……なんと、そちらは、ノロマンドルの名高き『焔の勇者』じゃないか」
「御見知り置き、どうも」
国によって身分証の作り方も異なるが、たいていは帝都皇帝府の様式に倣って、小さい木札に偽造防止のための特殊な技法による複雑な刻印が打たれた金属板を嵌めこむ。ヴィヒヴァルンなどは魔法で打つため、特に偽造が難しい。あとはその金属板に油性インクで名前を入れるか、名前も刻印する。
「さすがに有名人だな……そうか、我らは勇者一行ということか」
「いまさら、なに云ってるの」
ルートヴァンの言葉に、フローゼがあきれた。
「フフ、それを利用しない手はない。偽装としてな」
「声が大きいって!」
「何を話している!」
「なんでもないから」
ルートヴァンに代わってフローゼが前に出て、
「勇者フローゼと、その仲間。チィコーザでの遺跡探索の仕事を請け負ったから、仲間を集めてきたの」
「なるほど……魔術師と……剣士と……あの2人は?」
フューヴァとプランタンタンを見やり、兵士が怪訝そうな顔をする。
フローゼも返答に詰まり、
「えー、と……」
「ええ、あっしらは、こちらの、勇者様に匹敵する凄腕の魔法剣士様の従者兼盗賊でやんす」
ルートヴァンの言語魔術により、プランタンタンの言葉は流暢なチィコーザ語に自動変換されて兵士達の耳の届く。
「エルフのくせに、言葉がうまいじゃないか。……なるほど、そんな感じだな。いいだろう。通れ」
フローゼのネームバリューもあり、割とすんなりと、一行は関所をクリアした。
遠い山脈から吹き降ろされる北風に吹き曝されながら道を歩き、フューヴァが、
「そういやあ、おまえ、ゲベロ島から失敬してきたっちゅう言葉のわかる魔法の道具の頭飾りは、どうしたんだ?」
宇宙船ヤマハルによりもたらされた、同じ魔力を使う別文明による自動翻訳機のことである。
「そういやあ、いつの間にかねえでやんす。あの星の落ちるどさくさで、どっかいっちめえやんした」
「もったいねえな」
「仕方ねえでやんす。命のほうが大事で」
「金の間違いだろ、こいつ」
フューヴァがそう云って笑った。
かくして、別星系の文明の産物である最後の貴重な道具が永遠に失われたのだが、無常にもそのことに誰も気づかない。
「ああ、来た来た。おーい」
関所のある出城からしばらく歩いて、透明化を解いて真っ黒の魔力ローブ姿の2人が、一行を出迎えた。
「で? これからどうするわけ? 作戦参謀殿」
立ち止まりついでに、フローゼがルートヴァンに尋ねた。
「三手に別れようと思う」
「隊を分けるの?」
「既に一手、分かれている。いまチィコーザは、王位継承にからむ問題が起きている……いや、起きかけている。何代か前に、分家筋だった現王家が王位を継いでからこちら、当時の宗家の生き残りだの御落胤の子孫だのが定期的に出てくるのが、もはやこの国の伝統だが……」
「ナイファール王子の跡継ぎをめぐる騒動のことね? 血の……」
「血の白昼夢事件だ」
「また、その子孫が現れているの?」
「そうらしい。既にホーランコルらが、その自称正統後継者の傭兵になっている」
「気が早えな、おい!」
フューヴァが、半笑いで叫んだ。




