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第12章「げんそう」 1-2 帝都街道を征く

 「別れました。王都バラーヂンへ向かっているはずです。シーキさんが裏切っていなければ、私達の侵入は、誰にも気づかれていないでしょう」


 「そうか。……よし、そのままチィコーザの内情を探っておけ。僕らは、いちおうここノロマンドルの公都ヴォルセンツクを経由して、帝都へ向かう。他の魔王の情報を探しにな。いずれ、帝都で落ち合うことになるだろう。森から街道に出て、王都には立ち寄らずまっすぐ帝都に向かえ」


 「畏まりました」

 「聖下より賜った資金はまだあるのか?」


 「はい。3人とも肌身離さず持っておりますので、あの混乱でも失っておりません」


 「よしよし。では、頼んだぞ。ホーランコル」

 「ハッ」

 「ネルベェーン」

 「ここに」

 「2人とも、聖下の御為に、キレットをよく助けてやってくれ」

 「御任せくだされ!!」

 「では、また連絡する」

 小竜が、素早く寂然とした午後の森に消えた。

 3人は俄然、勇気づけられ、士気も昂揚し足どりも軽く街道へ向かった。


 もっとも……どの方角へ向かえば街道に出られるのか、まったく分からなかったが。


 そこで、ネルベェーンが鼻唄でも歌うように呪文を唱えた。

 すぐさま、見たことも無い色合いの、カケスのような鳥が飛んできた。


 2人は「魔獣使い」であるが、もちろん、通常の生物も比較的自在に操ることができる。


 カケスが、3人を導いて木々の合間を少しずつ飛んだ。少し進んでは、梢にとまって3人を待つ。


 「まさか、近くの街道まで案内を!?」

 「そうです」

 ホーランコルが半笑いで、

 「魔法って、便利なもんですね」

 


 カケス(に似た鳥)は2日ほどで深く平坦な山中から、森を横断するチィコーザの主街道に通じる支道に出た。この、各国を縦横に走る帝国街道は全て帝都リューゼンに通じているため、帝都街道、リューゼン街道などとも呼ばれている。


 カケスが去り、しばらく誰もいない道を歩いていると石の道標が現れ、本街道への矢印があって逆に進んでいたのを知り、今来た道を戻った。


 「ところで、キレットさん」

 歩きながらホーランコルが、やおらそう声をかける。

 「なんでしょう」


 「この遭難者のような風体で、流石に帝都の商人は怪しまれるでしょう。ここは、ウルゲリア方面から来た帝都の冒険者ということで通しましょう」


 「いったん、帝都に帰還するということにしますか?」

 「そうですね」


 ルートヴァンの命で王都にも寄らずまっすぐ街道を進むだけなので、それでも怪しまれまいと踏んだのだ。


 ただし、ウルゲリアからどこをどう通ってこの森の中を歩いているのかまでは、正直よくわからなかった。突っこまれる要素があるとしたら、そこだった。


 「方角的には、ガントックのほうから来ているみたいですね」

 先ほどの道標の文字を読んだホーランコルが、振り返りつつそう云った。


 「では、とりあえずそう云うことに……。ところでホーランコルさん、チィコーザ語が読めるんですか?」


 「少しです。話すのも、本当に少し。シーキさんのようには、いきませんよ」


 「私とネルベェーンは、話すだけなら、同じように少しだけ」


 魔獣使いとして、数年のあいだ帝国中を回っていたので、キレットとネルベェーンも簡単な日常会話ならチィコーザ語を話すことができた。なお、魔獣を使う仕事に関しては、帝都語を使っていた。というのも、そういう帝都語を共通語として使う正規のエージェント経由か勇者でなくば、仕事を受けなかったからだ。どこの国でも、帝都語も通じぬような田舎で魔獣を使う依頼など無いし、あっても見世物か田舎マフィアみたいな反社の面白半分のくだらぬ仕事で、しかも場合によっては南部人の2人を侮って支払いも渋かったためだ。もっともそういう場合は、相手が寝ているうちに見たこともない南方の猛烈な毒蛇か毒虫が忍び寄るのだが……。


 「みな話せるのなら、まあ宿くらいはとれるでしょう」


 「そうですね、面倒くさいことを聴かれて、いざとなったら、言葉がよく分からぬフリをすればいいでしょうし」


 「まったくです」

 3人はわりと気楽な調子で支道を進み、その日の夕刻近くに森を抜けた。


 抜けたとたん、林業を営んでいる寒村が現れた。いや、村というより、集落だ。家を含む建物が、20あるかないかだった。

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