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第12章「げんそう」 1-1 チィコーザ北部森林地帯

第12章「げんそう」



 1


 時間は少し遡って、シーキと別れたキレット、ネルベェーン、ホーランコル達である。


 帝国を構成する諸国諸州でも、ヴィヒヴァルン王国に匹敵する大国であるチィコーザ王国の北部には広大な森林地帯が広がっており、その森林の北の果てにバハベーラ山脈がそびえている。


 いかに密入国者とて、その森林地帯に紛れてしまえば、捜索は不可能といえた。


 ただし、生き残ることができれば……だが。

 まず、本格的な冬の前であるにも関わらず、この時節は非常に寒い。


 山脈の南側は、北側のガフ=シュ=インより平均で10℃は暖かいとはいえ、ひっきり無しにみぞれまじりの凍るような雨が降り注ぎ、葉の全て落ちた森は全てが濡れそぼってまったく火が使えない。これなら、気温は低くとも渇ききっていたガフ=シュ=インのほうが色々と過ごしやすい。


 しかも、食べ物が無い。


 この土地の猟師や肉食生物が獲物にするのは、我々の世界で云うウサギとカピバラを合わせたような大型の齧歯類(の、ような)生き物であるジークル鼠や天然の森林カスタ野牛、それにノロマンドルの山岳地帯にもいた野生のホルバル羊などであったが、とてもではないがどれも素人に狩ることのできるものではない。


 それらを、熊や山猫、狼に似た肉食獣や、なんといってもゲドル類が捕食している。


 中でも、狼竜ベゲット類やラプトル系の肉食恐竜に似ている(ゲーデルエルフが乗用にしていたのも、この一種のゲドルである。)走竜カーゲル類は、帝国中に同じような種類が分布しているゲドルだった。


 それらの危険な野獣も、森にウヨウヨしている。

 さて……。

 森の中では、果実はおろかキノコの類ですらもういっさい無い。


 一面に敷きつめられている落ち葉を食べることができるのなら、食料は無尽蔵にあるのだが……まるで、森の沙漠というに相応しい。


 その森の中を、3人は既に5日も放浪していた。


 が、3人のうち2人は一般的に観ても優秀な魔術師であり、しかも「魔獣使い」だ。


 その日も夕刻近くに、全長が4メートルほどの1頭の立派な狼竜ベゲットの一種が、どこからともなく冬眠前に丸々と太ったジークル鼠をくわえて現れ、3人の前に獲物を置くと、素早く森の奥に消えた。


 「私は、すっかり料理番だな」


 ホーランコルが苦笑しながら、大型の万能ナイフでジークルを捌いた。数々のフィールドをこなしているベテラン冒険者なだけあり、サバイバルもお手の物だ。


 後ろ足にロープを結んで手頃な木の枝に吊るし、そのまま吊るし切りで捌いてゆく。


 その間、キレットとネルベェーンは魔術で火を起こし、串を用意する。


 湿った柴を燃やし続けるのは難しかったが、そこは魔力で強引になんとかした。


 ジークルという生き物はなかなか美味で、脂も多く食べ応えがあった。しかも、脂質の高カロリーで寒さに耐えることができる。


 また、マントに包まって寝るときも、寒さ避けの魔術を利用した。

 「とはいえ、何か月もここで過ごすのは無理だろう。雪も降るだろうし」

 たき火を見つめながら、ホーランコルがつぶやいた。


 なにせ、超絶的な隕石群から緊急避難のように逃げてきたので、野営道具を本当に必要最低限しか持ってきていない。


 「どこかで、集落に寄らなくてはいけませんね。危険ですが……」


 キレットも、渋い顔でそう云った。流石に、疲れてきている。なにせ、ガフ=シュ=インの東端、ホリ=デン=ガスの街を出てから、ひたすら野宿の日々なのだ。いくら旅慣れているとはいえ、精神的にきつい。


 「そろそろ、殿下や魔王様から連絡が来るころだろう」


 いつも無口なネルベェーンがボソリと云い放ち、その通りだとキレットとホーランコルも頷いた。


 果たして……。

 その2日後に、ルートヴァンから連絡用の小竜が飛んできた。


 この小竜は、キレットとネルベェーンの魔力とつながっており、魔術的な能力で3人を探し出すことができる。


 「3人とも無事だったか」


 小竜からルートヴァンのふてぶてしい声が聴こえ、3人が勇気づけられた。自然と、声も明るくなった。


 「はい、殿下も御無事で。他の皆様方は?」

 キレットが、代表して対応した。

 「全員、無事だ。いま、ノロマンドル北部の田舎村にいる」

 「ノロマンドルですか……!」

 「お前たちは、どこなのだ?」

 「チィコーザ北部の森林地帯を、ウロウロしています」

 「シーキはどうした?」

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