第11章「ふゆのたび」 5-3 それぞれの任務
「ペッテル、他に、独自につかんだ魔王の情報はあるか?」
ルートヴァンが尋ね、ペッテルが卓に帝国の地図を出し、
「以前タケマ=ミヅカ様に伺い、またフローゼの探索により得たところでは、やはりタケマ=ミヅカ様の出身地である帝国最西部に1人、あと、マーラル市国に1人」
「マーラル市国だと?」
ルートヴァンが目を丸くする。
とっくに、滅んでいるからだ。
「滅んで、何年になりましたかな?」
スヴェルセルリーグも小首をかしげ、
「……300年ほどかと」
ペッテルの年齢からして、タケマ=ミヅカがペッテルにその情報を伝えた時点で、マーラルはこの世に無いことになる。
「どういう意味か……」
誰にも分からなかった。
「あと、チィコーザによって封じられた魔王が。従って、帝国内に6人、帝国の外に2人です。帝国外の魔王は、ストラ様の御倒しになられたロンボーンと、残りの1人は、私もわかりません」
「ヴィヒヴァルンで掴んでいる情報と、微妙に齟齬があるな……」
ヴィヒヴァルンで掴んでいるのは、帝国内に5人、帝国の外に3人の、計8人だ。
「合計は、変わらないのね」
フローゼの声にペッテル、
「殿下、チィコーザの封印魔王を、帝国内と数えるか、外と数えるかの違いでは?」
「そうかもしれん。ま、大した違いではない」
不敵に云い放ったルートヴァンが最後に、
「ペッテルよ、我らはこれよりチィコーザへ潜入し、はるか南方大陸の奥地に封印されし謎の魔王に関する情報を探る。お前はここでそれを補佐しつつ、タケマ=ミヅカ様より伺ったという帝国内の残る2人の魔王に関して、探ってくれ」
「畏まりました!」
生き生きとした声で、ペッテルが答える。人間の顔であれば、頬が紅潮していたことだろう。4本の触覚が、ピコピコと動いていた。
「公と公子におかれては、ペッテルを最大限、助けてやって頂きたい」
ルートヴァンが軽く礼をし、スヴェルセルリーグとハルヴォール(ついでに近衛隊長も)が臣下のようにさらに深く頭を下げ、
「御任せくだされ」
と、そろって云った。
「私は、どうすれば?」
ルートヴァンがフローゼのほうを向く。
「ペッテルが探索に使いたいというのであれば、別行動になる。そうでなくば、我らと共にチィコーザに来てもらう。聖下の調子がいつ完全に戻るのか分からぬ以上、戦力はあるにこしたことはないからな。それに、この中でチィコーザに入ったことがある者は、お前さんだけだ」
「ペッテル」
フローゼが、ペッテルに向き直った。
「どうする?」
「フローゼは、聖下や殿下と共に行って。私は、1人で大丈夫。それにこの任務は、1人や2人の冒険者を使うというより、もっと効率的に行う必要があるでしょう。何かしらの手法を考え、即座に実行します」
頼もしい言葉に、思わずフローゼがペッテルを抱きしめた。
「……しっかり。頑張って」
「貴女もね、フローゼ。調子が悪くなったら、いつでも連絡を。貴女がどこにいようと、なんとしてでも修理しますから」
「御願い」
そんな2人を見やり、公爵と公子も、しっかりとルートヴァンと頷きあった。
一行は、ペッテルを残して旧公都を辞した。
ペッテルとは宮廷魔術師等を通じて魔法の連絡を密に行うこととし、さらに近衛部隊よりペッテル護衛の駐在兵を置くことになった。同時に、少しずつ、旧都を復旧させることも決めた。
「とはいえ、ますます物入りに……」
魔の森の野営で、スヴェルセルリーグがルートヴァンに本音を吐露した。
「これでまたヴィヒヴァルンに借財をしても、本末転倒」
「フ……ノロマンドルは、ヴィヒヴァルンに続き正式に聖下に帰依した最重要同盟国。少なくとも、脅すような返済条件は出しませんよ。それより、公国も少しずつ自主財源を確保しなくては」
「分かっておりますが、この国はかねてより森林資源くらいしか。経済や、産業開発に聡い者もおりません」
「ヴィヒヴァルンより、人材を派遣するよう御祖父様に伝えましょう。単に金を融通するより、有益でしょう」




