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第11章「ふゆのたび」 4-3 自律式戦闘用ゴーレム

 「もちろん」

 「……こやつの自我は、どうなって? 今回のことは?」


 「元より、この子を通じ世界中を観ておりました。ここ20年ほど、公爵家が強力な勇者を育成し、私を襲い始めましたので……フローゼを使って、身を護っておりました。特にこの10年ほどはフローゼの記憶を改竄し、公爵家に近づけておりました。その記憶を、元に戻します」


 「分かった」

 「ですが殿下、条件がございます……」


 「フ……公爵家には、いかようにも事情を伝えよう。むしろ、どうすれば? 公女の、望みのままに」


 「そうですか。では……」



 5日後。


 予備パーツも使い、すっかり元通りになったフローゼが、バツが悪そうに真っ赤な髪をかきながら、一行の前に現れた。


 5日のあいだ、廃城はおろか大きな屋敷跡など廃墟の主だったところを探検しつくした4人、


 「こんなもんしかなかったぜ」

 宝石類や装飾品が数点あっただけでため息をつくフューヴァとは裏腹に、

 「こんなに御宝様を見つけたでやんすうううう~~~!」

 プランタンタンは笑いが止まらなかった。


 ちなみに、城の地下のワインセラー跡に残っていた古そうな高級ワイン200本ほどは、全てオネランノタルの次元倉庫に入った。


 「こんなもの、飲めるのかよ?」


 と思ったフューヴァだったが、ペートリューならば、たとえ腐っていても飲むだろうと思って黙っていた。


 「よお! あたしのことは、覚えてるかあ?」

 何かを吹っ切ったような、さっぱりした笑顔のピオラを見て、フローゼは、

 「もちろん覚えてる」

 しかし、フローゼは額に手を添えて、ずっと難しい顔をしている。

 「なんだよ、アタマが痛いのかあ?」

 「ちがうって!」

 「なんなんだよお」

 「公爵閣下に、なんて説明しようかって……」


 フローゼは、元は国外情勢視察と偵察、護衛と、何より復讐のため・・・・・に、現在127歳のペッテルが30歳頃に作った特殊な自律式戦闘用ゴーレムである。魂魄移植型ではなく、人格は魔術で植えつけた。当初は冒険者ということで世界中を旅し、自身を魔族と融合させた魔術師だか魔族だかを探しだし、殺すのが主目的だった。20年の長きにわたって帝国はおろか帝国の外も旅をしてまわり、遥か南方大陸の片隅で父公爵の依頼によりペッテル……人間と魔族を融合させた、とある準魔王級の魔族を倒したのが、約70年前。


 そのために発明した秘密兵器こそが、魔力阻害装置だったのである。


 ただし、フローゼ1人で、敵を1人しか阻害できない。あの結界は、複数人……パーティを一網打尽にするべく開発した罠だ。


 魔族を殺した後、既に引退してペッテルの兄に跡を継がせていた父公爵を殺した。その魔族に、本当に父が生まれたばかりのペッテルをそのように「改造」するよう依頼したと、確証を得たからである。


 というのは、やはり、心の底では信じたくなかったのだ。

 父親が、自らの意思で生まれたばかりの娘を魔族と融合させたなどと。

 しかし、それは本当に父の意思だった。

 理由など、知りたくもなかった。

 問答無用で老父を殺した。


 ペッテルは城の地下深くに幽閉されており、一族郎党には幼いころに死んだことになって伏せられていたのだが、そこで初めて、「呪われし公女」として表に出た。


 一族と近しい郎党の衝撃と動揺、恐怖は、言語を絶した。

 ショックのあまり、兄公は自害した。


 正確には、首を括って自害したが発見が早く死に損なって、寝たきりのまま3年後に死んだ。


 その子であるペッテルの甥が後を継ぎ、逃げるように遷都した。遷都は、死ぬ直前の兄の名で行われた。


 今は、その甥の子であるスヴェルセリーグ女公爵の代になっているというわけである。


 ペッテルは、公国を滅ぼしてやろうなどという気は、毛頭無い。父と名も知らぬ魔族にさえ復讐すれば、もう、どうでも良かった。


 証拠に、一族の前に姿を現した後も、地下に籠もって姿を隠した。

 ただ、生まれ故郷のこの街、この城で静かに暮らしたいだけだった。


 それなのに、みなはペッテルを棄ててどこかへ行ってしまい、あまつさえ、誰かの進言によるものか、公爵自身の判断か……公爵家は20年ほど前より「グリグの森」なる秘密結社を造り、勇者を育成して、各国で修業させ……実力と名声を兼ねそろえた頃合いで「呪われし公女」を倒すよう依頼し始めた。

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