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第11章「ふゆのたび」 3-10 生き人形

 「イジゲン魔王……貴女様を倒せば、この世界で魔力阻害装置に敵うものはおりません」


 フローゼが燃え盛る刀を両手で持ち、大股で腰を低くして霞に構えた。

 ストラは、無構えから音もなくただスッ、と右拳を前に出した。


 「……」

 「……」


 2人が、攻撃のタイミングを計って、一瞬の静寂をとる。

 その様子を物陰から観ていて、プランタンタンはハラハラもしなかった。

 (フローゼの旦那も、相手が悪すぎでやんす)

 「フュ!!」


 鋭い呼吸音がし、フローゼが超高速行動ハイ・マニューバに匹敵する超高速化魔法で風を切った。


 焔が吹き飛ばされ、ちぎれて赤い残像となった。

 ストラも、超高速行動ハイ・マニューバに突入。

 一瞬で、勝負がついた。


 様々な部品をバラまいて、破壊されたフローゼがぶっ飛んで地面に散らばった。


 特に下半身が大きく砕け、左脚のついた腰部と、股間と膝で破壊されて2つに砕けた右脚がバラバラにどこかへ飛んで行った。


 上半身がクルクル回りながら宙に舞い、オベリスクにぶつかって跳ね返り、地面へ落ちて転がった。


 刀を持った右腕が肩から外れて、プランタンタンの眼前に落ちてきて刀が地面に刺さった。


 驚いたプランタンタンが、後ずさって尻もちをつく。


 ストラが、霞の構えからのフローゼの大回転右逆袈裟斬りを、半歩前に出て間合いをつぶし、その両手首を右手で押さえたと同時に、体を右に開きつつ左足でフローゼの右腰部に鉞の一撃めいた回し蹴りを入れた。


 それだけで、フローゼの強力な対物理魔法防御をも貫いて、一撃でフローゼの躯体を破壊したのである。


 さらに、押さえていた右手でフローゼの右手首をつかんで捩じこむように捻りあげるや、フローゼの右腕が肩から砕けて外れた。


 そのまま、左手で掌打を打つと、胸部を潰されたフローゼの上半身がぶっ飛んだ。


 そして、超高速行動ハイ・マニューバを終了したストラの左手には、コード類の引きちぎれた魔力阻害装置が握られていた。


 「それを、壊さないでください!」

 悲愴的なペッテルの声がし、

 「いいよ」

 ストラが答えた。


 「おおい!! 大明神サマあああ!! いま助太刀するよおお!!」

 安全圏に皆を置いたピオラが、大きな多刃戦斧を片手に急いで戻ってきた。

 が、バラバラになっているフローゼの残骸に気づき、

 「な、なんだあ!? フローゼが……人形みたいだあ!」

 「生き人形だよ」

 ストラがそうつぶやき、

 「生きにんぎょおおおお!?!?」


 北方の泉のように美しく蒼く輝く大きな目をさらに丸くして、ピオラが虚ろな赤い目を半眼にしたまま地面に横たわるフローゼの顔を凝視した。



 4


 「いやあああーー~~ーー死ー~ぬかと思ったよおお~~~~~~」

 すっかり復活したオネランノタルが、むしろ楽しそうにそう云った。


 「この私を殺しかける存在が魔王以外にいるなんて、世の中は広いよ。ねえ、大公」


 「まさに……! 魔力阻害装置……とは……!」


 古びたテーブルの上に置かれた装置を見やって、ルートヴァンも感心しきりだった。


 「公女ペッテル……天才か」


 暗い廃城の一室の奥で、ルートヴァンが視線を向ける先の大きな公爵の座る椅子に座っているのは……立派な貴族の装束を身にまとった、栗色の髪も長く美しい少女だった。


 ただし……顔面は、凶悪なスズメバチと大ムカデと、あとはもう、名状し難い毒蟲の類をないまぜ・・・・にしたような姿であった。髪の合間の前頭部より、長さの異なる触覚も4本、のぞいている。膝の上でギュッと結んだ可憐な手や、ピカピカに磨かれた愛らしい革靴をはいた小さな足は、人間のものである。顔だけが、凶悪的な魔蟲まむしそれ・・であった。


 呪われしノロマンドル公女ペテルショーネ・アーレグラッテ・フルオーレゼンセス・レンドーラ・グリーガル・ドラノロマンドラその人である。


 その昆虫型の口器では人間の言語を発声不可能なので、オネランノタルと同じく魔力で通話する。

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