第11章「ふゆのたび」 3-8 魔力を遮断
(それほどの相手か……その魔人とやらは……)
ルートヴァンが心中で唸った。
「おおい、まっすぐあのボロボロの城に行っていいのかあ?」
先を行くピオラが、真っ黒のフード姿のまま、廃城を指した。
「どうなんだ? フローゼよ」
「え? ええ……行きましょう。でも、気をつけて。この通りで、前は、やられたから……」
「そうか……」
ルートヴァンも、油断せず杖を握る手の内を強めた。
皆の緊張を感じ取り、プランタンタンとフューヴァもビクビクと身体を硬くしている。ペートリューに至っては、街に入ってからワインを満たした水筒を3本、既に開けた。
だが、ストラは、フローゼを凝と見つめていた。広域三次元探査を一時停止しており、敵の接近には気づかない。それは、個体レベルの深層探査も同じだった。
従って、ストラはフローゼをまったく探査していない。
(フローゼという人……ぜんぜん汗をかいていない……)
小刻みに震えるほど緊張しているのであれば、ルートヴァンですら、心音が早まり、体温が上がって、些少なれども汗をかく。この、気温であってもだ。
フローゼは、その態度や表情とは裏腹に、何の体温変化も無ければ、汗をかいているようにも見えない。それどころか、
(心音すら、聴こえない……)
ストラがプログラム修復を一時停止し、待機潜伏モード自衛戦闘レベル2……いや、3を発動させようとした矢先。
「ギャアアアアアア!!!!」
魂消るような悲鳴を上げ、いきなりペートリューが仰け反ってひっくり返った。
驚いたフューヴァが駆け寄り、
「おい、しっかりし……」
そのまま、息をのんで黙りこむ。
「どうした、フューちゃん!」
ルートヴァンも心配して叫んだ。
「……ペートリューが、死んじまってる!!」
「なんだと!?」
もう、ストラが弱電プラズマ球を飛ばし、ペートリューの心臓を直撃。強制心臓マッサージを行い、一撃で蘇生させた。
「……ガハ!! ゴホゴホ!!」
「いい生き返ったァア!!」
フューヴァが驚くのと喜ぶのとで、素っ頓狂な声を発した。
そのとたん、
「ガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!!!!!」
オネランノタルが死にかけのセミめいて震えだし、魔力ローブも拡散して素顔を曝したとたん、ペートリューと同じようにブリッジめいて仰け反ったまま、額のシンバルベリルも明滅して、しまいにはバシバシと肉体にヒビが入って崩れ出した。
魔力中枢器官にダメージが入っている証拠である。
「……大変だ!!」
ルートヴァンが駆け寄ろうとして、すさまじい眩暈に襲われて回転するようによろめいて、そのままひっくり返った。なんとか意識を保っているのは、流石というべきだろう。
「これ……これ……は……!?」
「魔力子の動きや流れが、強制的に遮断……さらに、未知法則により、魔力子振動が停止させられている……!」
「ストラの旦那あ! フローゼの旦那が!!」
見ると、フローゼは変身……いや、その胴体が装備ごと観音開きに開いて、中から明らかに何らかの「装置」と思わしき、レンズ状の物体を備えたカメラのようなものが出現していた。
さらに、バリバリと稲妻状のプラズマ流が周囲を舐め、通りを囲うように、オベリスクのような形状の、真っ黒に赤や緑の電光が明滅する高さ20メートルほどの柱と塔の中間のような形状の物体が幾本も地面より出現した。何らかの結界装置だろう。
「フューヴァ! オネランノタルを連れて脱出を! ピオラは、ペートリューとルーテルさんを! 急いで街から脱出して!!」
「わ、わかったぜ!」
フューヴァがひっくり返って四ツ目をグルグルさせ、全身からシューシューと魔力を霧状に噴出するオネランノタルを抱えてダッシュした。
「ピオラ!!」
ピオラの魔力ローブも霧散し、多刃戦斧を構えて今にもフローゼに攻撃しようとしていたピオラが、歯を食いしばって走った。そのまま白目をむくペートリューとルートヴァンを脇に抱えて、
「すぐ戻ってきます、大明神サマあ!」
フューヴァに続いた。
「プランタンタンも急いで離れて!」
「ほい来た、云われなくても離れるでやんす!」




