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第11章「ふゆのたび」 3-6 分解

 あんな攻撃でピオラがやられるわけがないので、下手に横から手を出せばピオラの機嫌が最悪的に悪くなるのを分かって、オネランノタルがまずルートヴァンに声をかける。


 とはいえ、ピオラが戻ってくるまで、誰かが相手をしなければ。

 ルートヴァンは、もう少しフローゼの実力を見極めたかった。

 「フローゼ、頼む!」


 云われるまでもなく、フローゼが両手持ちの焔刀を振りかざし、何倍も大きな体格の巨猿魔獣に向かって吶喊する。


 魔獣が、目にもとまらぬ速度で横殴りに魔力をまとった左拳をフローゼめがけて振りかざした。爆薬を仕こんだ鋼鉄のハンマーに匹敵する威力で、人間が食らえばよほどの魔法防御を施していても無傷ではすまされない威力だ。


 フローゼ、まるで軽業師めいて空に跳び上がり、バック宙返りを打ちながらその太い腕に斬りつける。焔がまといつき、生体装甲ごと切断した。


 ……かに見えたが、太い腕は完全には切断に至らず、魔力と血が混じったようなどす黒い噴出物を吹き上げ、巨猿魔獣の怒りを買っただけだった。


 さすがに、焔の魔剣の傷はすぐには回復せず、怒り狂った巨猿がまだ空中のフローゼめがけて高速で右手を叩きつけた。


 が、その右手を空中で半身捻りにかわし、フローゼはさらに刀を振りかざした。

 太い右手首がほとんどもげ落ち、叫びながら巨猿がたまらず下がった。


 体操選手もかくや・・・という動きで着地し、脇構えにした刀を引っ提げてフローゼが間合いを詰めて走る。


 装甲魔猿が、耳まで避ける大口で真っ黒い毒牙をむいた。


 その首元に、高速で回転しながら飛んできた巨大な多刃戦斧がドッカと突き刺さった。


 火山の水蒸気めいて黒い霧を噴出し、魔猿が動きを止める。

 ピオラの投擲した斧がヒットしたのだ。

 「いまだ、やっつけろやあ!」

 まだ遠間にいるピオラが、フローゼに向かって叫んだ。

 (首を落とせば……!)


 フローゼが気合を入れ、脇構えから大上段に振りかぶりつつ魔猿の腕に跳び乗って、その首にトドメの一撃を放つ。


 一発で太い首の半分以上も刃が食いこんで焔が吹きあがり、バシバシと魔力に点火して魔猿の大きな頭が切断され、爆発するように前に飛んで、ボトリと落ちた。


 「すげえでやんす!」

 プランタンタンが叫び、すわ、やったか……と思ったが……。

 「……!!」

 装甲魔猿が、身体だけで大暴れに暴れ始めた。

 当たり前だが、魔力中枢器官が無事だからである。


 反動でフローゼがぶっ飛ばされて地面に転がり、あわてて駆け寄ったピオラも狂ったような大猿のパワーに圧倒され、押さえこめなかった。突き飛ばされ、地面に落ちた多刃戦斧を拾いあげるや、雄叫びとともに叩きつけたが、魔猿の高速ハンマーパンチにぶっ飛ばされた。


 「とんでもねえぜ、アイツ!!」

 フューヴァが目を丸くした。

 ルートヴァンが舌を打つや、

 「ルーテルさん、たまには、どうぞ」


 すました様子でストラが日の丸扇子を広げ、壊れた機械めいて暴走する魔猿を指す。


 「フ……御勅命とあれば」

 白木の杖を持ってルートヴァンが少し前に出るや、

 「ピオラ、フローゼ! 大公が魔法を打つ・・よ、下がって!」


 オネランノタルがそう叫んだ。2人がルートヴァンにとんでもない魔力が一瞬で集中するのを感じ、


 「じょおだんじゃねえぞお!」

 「ッ……!」

 あわてて距離を取る。

 とたん、ルートヴァンが「分解」魔術を思考行使!!

 物理的な分子結合を破壊しつつ、強制的に魔力を拡散させる。


 一撃で、魔猿が粉微塵になった。魔力中枢器官を破壊するというレベルではない。コマ送りのように、次の瞬間には大量の微細な粉塵がその場に崩れ落ち、風に舞った。フローゼに飛ばされた、その大きな頭部までも。


 ストラが、パタパタと扇子を仰いで、飛んできた魔力カスである粉塵を払った。

 


 「あっぶねえなあ、タイコーはよお」


 ひと戦闘を終え、座りこんだピオラが肩の荷を下げるとともに、つくづくそうつぶやいた。


 「あの人、人間とは思えない魔力量だな……」


 フローゼは、ルートヴァンが魔王かも……と、思ったが、きっと違うとすぐに思いなおした。


 (やっぱり、魔王はあのストラとかいう人だ……あの戦闘を、全て仕切っていた)

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