第11章「ふゆのたび」 3-1 公女の目的
(やっぱり、あのチビのクソ魔族が魔王なんじゃないの……? それとも、どこかに隠れている……?)
「……おい、おい、聴いているのか?」
「な、なに?」
ルートヴァンの声に、我に返った。
「撃退された時の模様を、少し詳しく教えてくれ。同じような襲撃が予想されるからな」
それは、御尤もだ。
「だいたい、1日に一度、公女の造り出した魔物が襲ってくる。1回目に同行した勇者たちは、初日の襲撃で壊滅。唯一生きていて、なんとか連れ帰った神聖魔術師も、数日後に公都で亡くなった。2回目と3回目の勇者は、スヴェルツク市内まで到達したけど、強力な魔人が襲ってきて、これも壊滅した。3回目の勇者は、けっこう惜しいところまで行ったんだけどね……」
「それで、お前さんだけ逃げてきたと?」
「命からがらね!」
「揶揄しているわけじゃあない。お前さんほどの実力者でも、公女の造り出したとかいう魔物に撃退されるというのであれば……その公女、準魔王級か下手をすれば魔王級の力を有していることになる。それほどの相手、100年以上もよく公国は秘匿していたな……と、思ってな」
「そ、それは、知らないけど……」
ヴィヒヴァルンの魔術諜報活動は、帝国全土に渡る。特に強力な魔物や魔術師、魔王につながりそうな情報は、詳細に集めてきた。
それでも、彼方の閃光の番人であったオネランノタルを含め、このように諜報から洩れる存在がまだまだいるのだと思うと、ルートヴァンは逆に嬉しくなった。
「ますます、その御尊顔を拝みたくなった」
含み笑いを漏らしながら悪そうな笑みを浮かべるルートヴァンを、信じてよいのか悪いのかわからないといった複雑な表情で見つめ、フローゼが皆を先導した。
その、1日目も終わろうとしていたころ……。
この時期は、我々で云う午後4時ころにはもう薄暗くなってくる。
丘陵から平野に入ったが、畑も何もなく、荒野が広がっていた。
「もったいねえな、こんな良さそうな土地を遊ばせているのかよ」
茜色の平原を見渡し、フューヴァが当たり前の感想を云った。
「ここらはもう、呪われし公女の縄張りだからね」
「魔物が襲ってくるってわけか。で、公女さんとやらは、その昔のみやこで、なにやってんの?」
「え!? さ、さあ……」
思わぬ質問に、フローゼが面食らった。
「この国を、滅ぼそうとしてるんでやんしょ?」
「100年かかって滅ぼせねえんじゃ、たいしたことなくねえ? それとも、ほかに目的があるんじゃねえの?」
「何の目的でやんす?」
「知らねえよ」
プランタンタンとフューヴァの会話に、フローゼは少なからず動揺した。これまで、公女のことをそういう視点で語ったものは皆無だった。みな、退治することしか考えていなかった。公女の、目的など……。
その2人を満足げに眺めていたルートヴァン、
「ま、それを確認するだけでも、価値があるだろうな、この臨時遠征は」
「ちょっと、もう公女と相まみえるつもりでいるわけ?」
「フン……フローゼよ、お前さんこそ、我らと異次元魔王聖下を侮らぬほうがよいだろうよ」
「侮っているつもりはないけど……」
確かに、そこいらの勇者一行ではない。魔王一行である。まして、グリグの森が派遣した歴戦の勇者陣を、難なく撃退している。
(だけど……あの敵は……)
フローゼが公女の繰り出す恐るべき魔人を思い出して戦慄していると、突如としてその気配は現れた。
「来た!!」
夕闇の近づく冬の黄昏の狭間より出現したように、魔獣……いや、巨大な魔蟲の群れは平原の上空に現れた。
フローゼがすかさず曲刀を抜きはらうと、刀身に焔が吹き上がった。
「なかなかの魔力じゃないか」
ルートヴァンが感心する。攻撃力と対魔効果を合わせて、+3~400の付与効果はありそうだ。かなり強力な魔法の武器である。
「私の刀なんかいいから! あの魔物の群れが見えないの!?」
「もちろん、見えてるよ。どれ……」
ルートヴァンが白木の杖をついて前に出ようとすると、
「ちょっと待ったあ、露払いはあたしだって決めてるはずだぞお!!」




