第11章「ふゆのたび」 2-11 まともなの
しかし、それは云い換えれば「常識」というやつだ。
なかなか、いったん身についた常識を捨て去るのは容易ではない。
最初から「常識が無い」のなら、どれほど気が楽か。
「はーあ、あ……」
自分は、本当にこのメンバーの中に入っていて良いのだろうか……。フューヴァの脳裏に、時々、そういう想いが強く沸き上がる。いくら、ストラが自分を必要と感じている(らしい)としても……。
(ま、いいさ……棄てられたら、そこまでだ。ストラさんは、アタシなんかがどうこうしなくたって、この世界で神になるぜ……間違いねえ。見届けることができたら、それで本望じゃねえか。御家の再興なんか、そのついでだぜ……!)
そこまでの覚悟や自己認識を備えているだけで、やはりフューヴァはこの中ではある意味「別格」なのだが……。
「……?」
一同のうち、その存在を認識して「おかしいな」と思ったのは、ルートヴァン、オネランノタル、そしてピオラだった。ストラが完調状態なら、広域三次元探査に「妙なもの」がひっかかったことを不審がるのだろうが、残念ながらいま広域三次元探査はプログラム圧縮修正中で、常時機能していない。
「なんだ? あんなやつ、いつ現れやがった?」
フューヴァの言葉に、初めてプランタンタンとペートリューも、その真っ赤な出で立ちの女戦士を認識した。
「さあでやんす」
「あんな派手なの、遠くからでも分かりそうなのに、よ」
見晴らしの良い田園地帯に、フッと出現したかのようだった。
かと云って、転送魔法は御法度。いや、そもそも魔力が動いていない。
「ストラさんに、雰囲気が似てる……」
ペートリューが、据わった眼でフローゼを見つめ、じっとりとささやいた。
「大公……」
オネランノタルが、 2人にしか聴こえない魔力通話で小さくつぶやく。
「やっと、まともなのが出てきましたな」
「うん……だけど、なんか……なんかおかしいよ、あいつ」
「……と、申しますと?」
「作り物みたいだ」
「ふうん……?」
「ストラ氏に、似ているよ」
オネランノタルは、ペートリューと同じ感想を述べた。
「どれ……」
ルートヴァンがチラッとストラを見やったが、ストラはまったく違う方向を半眼で見つめて、腕を組んで立っているだけだった。
そのストラを、フローゼが遠くより見つめた。
(あの方向……? あいつ……まさか……?)
フローゼが、ストラを鋭い視線で見すえる。
そのフローゼの視線に、ルートヴァンが気づいた。
(なんだかよく分からんが……聖下の行動の意味に気づいている様子……フフ、ますます、その実力が楽しみな……)
そう思いつつ、ルートヴァンが前に出る。
「大公!」
「次は僕の番ですよ……」
「いいやあ、あたしだあ」
ピオラが、真っ黒い魔力のローブをマントのように前開きで脱ぎ捨て、背中の多刃戦斧を右手に持ち直して、鋭い視線でフローゼを睨みつけながら大股で歩いた。
「ピオラ、どうした?」
ルートヴァンがそう訪ねると、
「あのヤロウ、大明神サマを睨みつけやがって……!! 生意気なやつだあ! 大明神サマの露払いは、あたしときまってるう!!」
そこで、初めてフローゼがピオラに視線を移した。
そして、小鼻で笑った。
ピオラの眼が、一気に赤くなった。
「うるぉおおぐああああああーーーーーッッ!!!!」
全身の筋肉が膨れ上がり、重戦闘モードでフローゼに突進する。
「おい、迂闊に……」
と、ルートヴァンが云った瞬間であった。




