第11章「ふゆのたび」 2-7 夜襲
ルートヴァンはそう云うが、ガフ=シュ=インの荒野を踏破したこのメンバーで、ノロマンドルの街道筋の野宿を苦に思う者はいない。一般人ならモンスターや夜盗の心配もするが、この一行を襲う命知らずは死んでしかるべき愚かさであるし、相手の実力も見抜けない間抜けの極みであって、同情の余地もない。
それどころか、
「さっき、ピオラが倒した連中、けっこう名のあるヤツラだったみたいだよ」
ルートヴァンの起こした焚火に、イジゲン村の人々が持たせてくれた焼きしめた堅パンやホルバル羊の干し肉をあぶり、またオネランノタルが次元倉庫から出した竜肉も焼いていると、オネランノタルがいきなりそう云った。
「なんで、分かるんだよ?」
拾った木で作った木串を回し、竜肉を焼きながらフューヴァが不思議そうに尋ねた。
「あの宿場に、まだ魔力の鳥を残して、情報を収集しているのさ」
「なんのために?」
「こういう話を探るためにきまってるじゃないか!」
「ふうん」
気のないカラ返事をし、フューヴァが肉の焼け具合を見た。フューヴァにとっては、そんなどうでもいい話より眼前の肉だ。
「おいプランタンタン、塩とってくれ」
「ほいでやんす」
「ちなみに、僕も偵察用のカラスやら小竜やらを、既にヴォルセンツクまで出しているよ」
ルートヴァンも、焚火に顔を照らしながらそう云ったが、
「そうなのかよ?」
フューヴァがもう、肉の焼け具合に集中して聴いていなかった。プランタンタンもそんな話は端から興味がなく、ペートリューは、ひたすら飲んでいるだけ。ピオラは大量の肉を勝手に焼いて貪っている。ストラは……先ほどまで日の丸の扇子を両手に広げ、中途半端な踊りのような、良く分からない動き(337拍子である)を延々と少し離れた街道でしていたが、今は腕を組んだまま遠くの暗闇を凝視していた。
つまり、ルートヴァンとオネランノタルで、詳しい打ち合わせをするしかない。が、2人ともそれで充分だった。
「やれやれだなあ」
物を食べない部類の魔族であるオネランノタル、道端に寝転がって、星を見ていた。彼方の閃光のあったダジオン山脈と比べて、星の位置がかなり違う。
また、静謐な星空を眺めていると、不思議にして凄絶なあの夜のように、いまにも全ての星が落ちてきそうな気がして、ゾクゾクした。
「ヴォルセンツクにも、既にあの代官から我々に関しての魔法の伝達が飛んでいる様子。連中の云っていた意味が、少し分かりましたよ」
「へええ。公爵が、魔王にこだわっているってこと?」
「それもありますが……何やら、この国には、他国に秘密にしている事情があるみたいですな。冒険者……それも、特に魔王退治を最終目標とする、勇者と呼ばれる凄腕を育成する、秘密の組織があるようです」
「なんだよ、それ!」
寝転がったまま、オネランノタルが笑った。
「そんなの聴いたことないし、なにか意味があるとも思えないね!」
「詳細は、ヴォルセンツクに入るまでは、分かりませんがね。なにせ、人の噂を聴いているだけですし……」
「でも、待ってよ、大公。と、いうことは……」
「あんな連中が、次々に襲ってくる可能性が」
「なんと、面倒だねえ。予定を変更して、公都を素通りして先を急ぐかい?」
「それも良いですが、公都に有益な情報があった場合、見逃すのはよろしくない」
「まあねえ」
などと、オネランノタルが云った矢先、四方八方から大小の魔法の矢が2 ~30も飛びこんできた。
「な、なんだ、なんだ!?」
炸裂する閃光と音に肉を噴き出して驚いたのは、しかし、フューヴァとプランタンタンだけだった。ペートリューは元より我関せずなので置いておき……ピオラも敵の気配をずっと本能的につかんでいたし、ましてルートヴァンとオネランノタルは、複数の冒険者パーティが半径50メートルほどに近づいたころより、魔術師達の魔力の動きを随時把握していた。これは通常の探知術では対抗魔術をかけられ、探知から逃れられる恐れがあるため、純粋に「魔力の動き」を察知するもので、魔法ではない。一種の、能力だ。近距離であればオネランノタルは魔族なので当たり前のようにできるが、ルートヴァンは学院の高等実地教育で鍛えた能力だった。星隕の魔王リノ=メリカ=ジントの天空に広がる広大にして極薄の魔力を掴んだのも、この能力である。
「夜襲だぞおお!」




