第11章「ふゆのたび」 2-5 感覚
正確には、魔法剣士のうちの1人は、今は滅んだウルゲリア出身の神官戦士だった。世襲や派閥にどっぷりと浸かりきった神殿組織を抜けて、冒険者になったクチだ。
「しかし、ホーランコルやキレット達ならば、まずまずの勝負になるだろうが……ピオラの運動不足解消にもならん」
「それでもやる理由は、やっぱり、冒険者の言動かい?」
オネランノタルにそう云われ、ルートヴァン、
「ええ。ノロマンドルがそれほど魔王にこだわっているという話は、聴いたことがありません。なにか、ウラがあるのかな……と」
「そうかもね。意外と、面白い秘密があるのかも?」
「それを、あぶり出そうと思いまして」
「じゃあ、とっとと連中の頭脳でもなんでも読めばいいものを、回りくどいね!」
「それじゃあ、面白くないでしょう」
「それもそうだ! イヒヒヒ!」
オネランノタルも暇つぶしで旅に同行しているのだから、まんざらではない。
そこへフューヴァが下がってきて、
「どうだった? ルーテルさんよ」
「上出来だよ、フューちゃん」
と、魔法付与が終わった勇者たちが、やおら超高速行動術でピオラに吶喊した。
瞬間移動のように4人が消え、空気が震えた。
あたりまえだが、完全に本気モードだ。
これでは、ピオラも手加減のしようがない。
ほぼ同時に男の魔術師が放ったまずまずのレベルの火球を、高濃度魔力のローブマントを楯代わりにして弾き飛ばすや、その動きのまま空中に向かってピオラが身をグッと沈めつつ右の肘打ちを放った。
それが、超高速行動で接近中の神官戦士を直撃!!
並の相手なら4人同時の超高速攻撃で四等分にする必殺技だが、血飛沫が舞って、防護魔法ごと顔面をつぶされた神官戦士がダンプカーにでもはねられたように数十メートルもぶっ飛ばされ、野次馬の頭上を越えてはるか遠くに落ちた。
勇者や戦士の持つ武器は元から強力な魔法剣で、攻撃力+50に加え、攻撃力付与術で、勇者は+150、戦士は+100のパワーを持っていた。
この攻撃力では、さすがのトライレン・トロールの装甲皮膚もダメージを負う。
当たれば、の話だが。
相手は超高速行動中なので、人間の眼には速すぎて見えない。従って、ピオラが1人で踊っているようにも見えた。
魔法戦士もピオラの回し蹴りを食らってくの字にひしゃげて地面を舐め、大柄な戦士は強烈なボディブローが直撃して大量の血を噴いて転がった。もちろん、2人とも3重の防護魔法が効いている。ただ、単純にピオラの物理的な打撃力がそれを上回っているのだ。
勇者だけが、高速のまま往復しピオラへ4回斬りかかったが、全て避けられて超高速化が解けた。
いったん間合いを取り、勇者が下がった。
(……どうして、普通の動きで超高速化魔術の動きに対応できるんだ!?!?)
予知能力……とも思えたが、まったく分からなかった。
周囲の野次馬も、ピオラが1人で素早く動いて、気がついたら見えなくなった勇者パーティが半壊している。
「何が何だか……」
という感じだ。
こんな勝負は、見たこともなかった。
「フ……魔王の仲間と戦うというのは、こういうことだ」
ルートヴァンが小鼻で笑い、プランタンタンがルートヴァンを見上げて、
「ストラの旦那ならまだしも、なんでピオラの旦那は、魔法も使わねえで眼にも止まらねえ速さの敵を倒せるんでやんす?」
「さあな。感覚じゃないか?」
「へえ」
プランタンタンは、さっぱり分からなかった。
が、その通りなのだ。
予知しているわけではないが、本能というか、トライレン・トロールの戦闘の感覚が、予め攻撃の来る(だろう)位置に肘を「置く」だけで相手が自分からぶつかってきてぶっ飛んでいるし、風を読むように勇者の剣撃が来る(だろう)位置から少し身をずらすだけで、勇者が空振りする。
トロール種でも特に知性や戦闘能力の高いトライレン・トロールの中でも、さらに純粋な戦士の血族の1人が、ピオラだった。
まさにピオラならではの、超絶戦士の超感覚だ。
「こりゃ、魔王の露払いに、うってつけじゃないか。私のくじ引きも、まんざらじゃあないね!」
オネランノタルが漆黒の奥で、嬉しそうにつぶやいた。




