第11章「ふゆのたび」 2-3 くじ引き
フューヴァが唖然とする勇者たちに向かってそう叫び、ルートヴァンらと円陣。
「ルーテルさん、マスイぜ! ストラさんがああじゃ、威厳が無さ過ぎて魔王の喧伝にもなりゃしねえし、だいたいあんな調子で戦えるのかよ!?」
「そうだねえ……」
「露払いは、私たちでやるから大丈夫だよ。……おいピオラ、いつまで笑ってるんだい!」
「だって……だって……!」
「まあまあ、2人では、人間相手に手加減ができますまい。僕が全て引き受けますよ」
「ずるいぞ大公、私たちにも遊ばせてよ!」
「遊びじゃねえぞ、オネランノタル!」
「まあまあ、フューちゃんおちついて。遊びにもならないよ、あんな連中」
「暇つぶしにはなるだろうさ、平気だよ」
「しかし、殺さないで、うまく処理できますかな?」
「殺さないんでやんすか? ルーテルの旦那」
「ヴィヒヴァルンじゃないし、いちいち面倒にクビをつっこんでも、何の得もないよ、プランちゃん」
「じゃあ、殺さねえほうがいいでやんす」
「誰が相手をするんだよ?」
「くじ引きできめよう、くじ引き! くじ引きがいいよ! くじは、私が作るからさ!」
「おまえが作ったクジじゃ、おまえに当たるにきまってるだろ!」
「ひどいな! フューヴァ! そんなことはしないってば!」
「全部聞こえているぞ、貴様らあああああ!!!!」
ふと見やると、名も知らぬ勇者を含め、みな顔を耳まで真っ赤にし、歯を折れんばかりに噛みしめ、眼が出んばかりに見開いてルートヴァンらを凝視していた。
「……手加減だの暇つぶしだの、遊びだの……いい態度じゃないか!! ノロマンドル公の名にかけて、我らを倒さなければ、公都には一歩たりとも近づけさせんぞ!」
「ちょっと、待ってて! いますぐ、くじ引きするから」
オネランノタルがそう云い、息を飲んだ勇者たちが怒りに震えている間に、素早く白い棒のようなものを作り出し、ルートヴァンに引かせる。
先が白く、はずれだった。
「……ホラ、ピオラ、いつまで笑ってるんだい! さっさと引いて!」
苦しそうに腹を抱えて突っ伏してる真っ黒のフードを被ったピオラが長い手だけを伸ばし、棒を引いた。
棒の先が赤くなっており、
「あっ、ピオラが当たりだ!」
そう云ってオネランノタルが自分の分の棒を引くと、先が白かった。
「じゃあ、あたしが相手だあ!」
ピオラが立ち上がり、魔力のフードをかなぐりとって、バッサリとマントのようにローブの前も開いて前に出た。
「うおお……!」
その威容と異様さに、町の者たちを含めてどよめきがあがる。
なにせ、ただでさえ2メートル半はある背丈に、この真冬にほぼ半裸……しかも、筋骨隆々ながら超絶豊満、純白の漆喰肌に、長い黒鉄色の髪の頭には短角が5本ある。その目は遥か北方の泉がごとく澄んで青く、ニカッと人懐こい笑顔に、肉を咬み切る太く長い牙がのぞいた。
「に……人間じゃないぞ!」
「エルフでもない!」
「なんという亜人種だ!?」
野次馬が、目を丸くして口々に叫んだ。
不敵な笑みと冷たい殺気に満ちた眼のピオラがずいと一歩、前に出て、勇者たちが思わず下がりかけて踏みとどまった。
「まっ……待った! 待ってくれ! 宿場での戦闘は厳に禁止されている!! せめて街道で……できれば、街道から外れたどっか空き地でやれ!!」
そこに、代官が泣きそうな声でそう割って入った。
ギロリとピオラが小柄な代官を見下ろし、代官が震え上がる。
「あたしは、どこでもいいよお」
その能天気な声に、勇者たちがまた歯がみしつつ、
「ふざけ……! いいだろう、こっちだ!」
6人の勇者一行がピオラを含む異次元魔王一行を先導し、宿場から出る。
「……こいつは、見世物だ!」
その後ろを、他の冒険者や旅人、商人等の宿場の人間を含む野次馬が追いかけた。
「メンドくせなあ、ルーテルさんよお。喧伝にも一銭の得にもならねえのに、いちいちあんな連中の相手をするのかよ?」
歩きながらフューヴァが頭の後ろで腕を組み、文句を垂れた。
「フフ……ヴィヒヴァルンでは、スーちゃんの実力試しに、何組かの勇者に生贄になってもらったが……確かに公国でそんなことをする意味や価値はない。しかし、さっき連中が云っていたことを覚えてるかい?」




