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第11章「ふゆのたび」 1-18 イジゲン村のストラの湯

 「いやああ、いい湯でやんしたねえええ~~」


 プランタンタンがフューヴァとペートリューを引き連れ、浴場に隣接した簡易休憩所から、ナーデルの納屋に帰ってゆく。


 フューヴァの足も、足湯や入浴ですっかり良くなっていた。


 また3人とも、村人たちが衣服を仕立て直し、すっかり身ぎれいになっていた。ペートリューのズダボロの魔術師ローブですら、村の女たちの練達の技で修復されている。


 「お風呂で一杯やるのは、格別ですうう~~~」

 死人のような眼付だったそのペートリューも、すっかり生き返っていた。

 「あんまり飲みすぎるなよ、水も飲めってストラさんも云ってただろ」

 「飲んでますよ~~」

 「ウソつけ、酒だろ、それ」


 「水はあっしが飲んでやんす。よく喉が渇きやせんねえ、ペートリューさん……」


 3人の声が暗がりに遠ざかると、ルートヴァンとオネランノタルに、ナーデルと村長が近づいた。


 「大公殿下、オネランノタル様、なんと御礼を申し上げてよいやら……そして、当初の御無礼を、いかにして御詫び申し上げてよいやら……」


 2人とも、そう云って深く礼をした。

 「もういい、全ては異次元魔王様の御陰だ」


 「そのことで、魔王様におかれましては、未来永劫! その御恩に感謝し、栄誉をたたえるため、どうかこの村をストラ村……いいえ! 魔王様の聖名みなを冠するのが恐れ多いのでしたら……魔王村、もしくはイジゲン村と変更いたしたく思いまして、なにとぞ、なにとぞその御許可を賜りたく、伏して御願い奉り申し上げます」


 そう、また深々と頭を下げ、ルートヴァンとオネランノタルは互いに見合って苦笑した。


 「好きにするがいい。聖下は、自らの聖名みながどう使われようと、御気になさる御方ではない。その大御心おおみこころの広さは、まさに無辺大だ」


 「なんと……! そ、それでは、ぜひともストラ村に……!」

 「イジゲン村のストラの湯のほうがよくない?」


 何とはなしにオネランノタルがそう云い、ハインとナーデルが目をむいて小柄なオネランノタルの魔族の顔を見つめた。


 「オ……オネランノタル様!! それ、頂いてもよろしいでしょうか!!」

 「ああ、別にいいよ」

 苦笑気味にオネランノタルが笑い、黒と翠の四つの眼を細めた。


 「では、是非ともそうさせて! いや、素晴らしい! イジゲン村のストラの湯……! ストラ温泉! すばらしい、素晴らしい! イジゲン村のストラの湯! ストラの湯だ……!」


 村長が手を叩いて破顔し、さっそく村の者たちに知らせるべく、叫びながら役場に向かって行ってしまった。


 それを見送って、改まってナーデルが再びルートヴァンに礼をして、


 「大公殿下、先般は皆様方を疑うあまり、大変に無礼な態度を……一生の不覚、汗顔の極みに御座りまする」


 「なんの、いきなり現れた怪しい一行を疑うのは当然。其方の態度は正しい」

 ルートヴァンに云われてナーデル、

 「そうおっしゃっていただけると、幸いに御座りまする」

 「気にするな」

 「ハイ……。それで、つきましては、これを御返し致したく……」


 ナーデルが肩下げの大きな革のカバンをまさぐり、一行を納屋に泊まらせる際に受け取った1,400トンプを、そっくりそのまま袋ごと差し出した。


 「どうした、これは、お前のものだぞ」


 「とんでも御座りませぬ! 村を御救い頂いた方々より、金品を受け取るわけには……!」


 ルートヴァンは軽く笑い、

 「バカを云うな。村を救うのは、我らではない」

 「……と、申されますると?」


 「我ら……いや、異次元魔王様が温泉を掘ったのは、きっかけにすぎないのだ。これからのお前たちの働き如何で、村はどうとでもなると心得よ。単に湯が沸いただけで終わらせるか……ここを公国を代表する景勝地、湯治場にするかどうかは、全てお前たちの仕事次第だぞ。その金は、そのために使えばいいだろう」


 「なんと……!!」

 暗がりにも、ナーデルが涙ぐむのが分かった。


 「公都に宣伝に行く金も要るし、人を集めてもっと建物を建てるのにも金が要る。うまく使え。使ってこその金ではないか」


 「ハハアーッ!!」

 ナーデルが両手で金の入った袋を掲げつつ、片膝をついて戦士の礼をした。

 それを見てオネランノタル、

 「あんたは、元は冒険者かなにかなの?」


 立ち上がって再びカバンに金袋をしまったナーデルが、オネランノタルへ向き直った。

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