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第11章「ふゆのたび」 1-16 これを答えにする

 「温泉! 地面から湯が出るという、アレですか!」

 「うん」

 「なるほど、温泉ね……」


 温泉であれば、いちいち湯を沸かさなくても、いくらでも熱い湯が噴き出るというわけだ。


 「いいですなあ、聖下!」


 ヴィヒヴァルンでは日常的にたっぷりと湯に浸かる習慣はないのだが、王宮での広い風呂を思い出し、ルートヴァンは久しぶりに肩まで湯に入ることができると思うと自然に笑みがこぼれた。


 入浴という習慣も必要性も無いオネランノタルは、ただ体の汚れを落とすために洗うだけではなく湯に入るということにそこまで執着することが理解できなかったが、


 「で? ストラ氏、オンセンとかいう高温の地下水を、どうやって掘るんだい?」


 そっちに、興味があった。まさかガフ=シュ=インの王宮のように、手で掘るものか。


 「さっき、計算済みだよ」


 云うが、ストラが一瞬だけ高温のレーザーをその手から発し、山肌の岩盤を切り裂いた。


 おおっ、と、ルートヴァンとオネランノタルが瞠目し、

 「おっ、おっ、お……」


 いきなり地震めいて地面が小刻みに揺れ、裂け目より音を立てて大量の蒸気が噴出しはじめた。


 さらに、揺れにより山間の上からゴロゴロと大小の石も落ちてきたため、ルートヴァンとオネランノタルが互いに無意識で魔術と魔力のバリアを展開しつつ下がった。


 そして、バシバシと岩盤の砕ける音が地下から聴こえ……幾重にも轟音をこだま・・・させて豪快に大爆発が起き……アッと云う間に、厚い岩盤をぶち抜いて大量の湯が数十メートルも噴き上がった。


 「おおっ!!」

 熱湯と熱泥が雨のように降り注ぎ、2人のバリアにへばりつく。

 当然ながら、ストラは平気で灼熱の噴出孔のそばに立っていた。

 「ち、ちょっと、熱くない!? 人間は平気なのかい!?」


 はじめて「温泉」というものを目の当たりにし、濛々と蒸気を噴き上げる高熱の湯の勢いにオネランノタルが驚く。


 「いや、さすがにこれは、平気ではありませんな! 温度を調節して、冷まさないと、とても入れたものでは……」


 「魔法や魔力で冷やすのかい!?」


 「我らはそれでも良いですが……フフ、どうせなら、村の連中に、これを答えにしてやりましょう!」


 「これを答えだって?」

 オネランノタルが、真っ黒なフードのまま、ルートヴァンを見やった。

 ちなみに、火山性の温泉ではないため、硫黄の臭いは特にしていない。



 「なっ、なんだなんだ!?」


 いきなりの揺れに轟音、さらにはドドドド……というか瀧音のような地鳴りと、北の山間の方角からまさに瀧を逆さまにしたような水流が天まで突きあがって、その水柱から蒸気が濛々と上がっているのを見て、村人が仰天してナーデルの家の敷地の前に集まってきた。


 当のナーデルも、何事が起きたかわからず、呆然と立ちすくんで家と納屋越しにその水柱を凝視していた。


 「おい、ナーデル! 何がどうなってる!」

 ハインと取り巻きが、敷地に入ってきた。

 「い、いや……私もわからない」


 戸惑って、ナーデルが答える。

 「なんなんだ、あれは! なんで、地面から天に向かって瀧が!?」

 「だから、わからないって!」


 「あー~、ありゃあきっと、ストラの旦那……あ、いや、魔王様の仕業でやんす」


 こちらも音と揺れにに驚いて納屋から出てきたプランタンタンとペートリューが、いつのまにかナーデルの隣に立って山間を見やってそう云った。


 ちなみにフューヴァはピオラの手を借りて、直接ルートヴァン達を追って納屋の裏に回っている。


 「魔王……様の仕業だと!?」

 「何のために!?」

 「ありゃあ、いったいなんだ!? 魔法か!?」

 「まさか、村に危害を!」

 ハインと取り巻きが、まくし立てた。

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