第11章「ふゆのたび」 1-15 おんせん
「で、ルーテルさん、どうすんの?」
「なにが、だい?」
「何がって……この山の果てのド田舎村を、どう景気よくしてやるんだよ! アタシなんかにゃ、何にも思い浮かばねえぜ!」
「急に云われても、僕だってよく分からないね」
「そうだよなあ」
「しかし、大公。あのジジイ、どうしてそんなことを条件にしたんだろ? 村長がそう云うのなら分かるけどさ」
オネランノタルも、そう不思議がった。
「ま、何か秘密があるのでしょうが……別に知りたくもありませんな」
「好奇心の無いやつだねえ」
意外に無関心のルートヴァンに、オネランノタルが呆れた。
ルートヴァンにしてみれば、深淵神秘なる魔術の奥義にアリのフンほども関与しない出来事に関する好奇心など、持ち合わせているほうがどうかしている。
「じゃ、少し、この村がどのような村か、見て回ってくるよ」
ルートヴァンがそう云って出かけようとした矢先、
「おい、ストラさんがまたいねえぞ!」
フューヴァがそう叫び、プランタンタンを追及する前に、
「あっしは、知らねえでやんす!」
プランタンタンが薄緑の眼をひん剥いてそう云った。
また、今回はペートリューも見ていないうちに人知れずいなくなったようで、ペートリューが首を振った。
「大明神サマなら、さいしょからこの納屋に入ってねえぞお」
ピオラが、頭だけ魔力のフードとってそう云ったものだから、暗がりにいきなり真っ白な生首が出てきたように見えて、フューヴァやプランタンタンが驚いて小さく声を上げた。
そう云って胸を抑え、フューヴァ、
「脅かすなよ、ピオラ」
「別に、脅かしてるつもりはねえよお」
「じゃあ、ストラさんは、まだ外にいるのかよ?」
フューヴァが、出入り口から外を見やった。逆光でよく見えない。
「僕が見てこよう」
ルートヴァンが外に出る。
面白そうだからと、再び魔力ローブをまとったオネランノタルも続いた。4人は、そのまま残った。
「聖下、何処におわしますか? 聖下?」
ルートヴァンが声をかける。パッと見た感じ、どこにもいない。
どれ……と、探索術を行使しようと白木の杖を軽く掲げたが、
「あそこにいるのが、そうじゃない?」
先ほどもそうだったが、ストラは少し小高い坂の上で、山間の一定方向を凝と見つめ……今は、太極拳……のような動きをしていた。
「何をしてるんだろ?」
「体操」という概念の無いこの世界で、オネランノタルはガフ=シュ=インからずっとストラが身体を規則的に動かしているのが不思議だった。
「わかりませんな」
ルートヴァンが、いかにもどうでもいいというようにぶっきらぼうに答え、
「聖下、聖下!」
ズカズカと緩い坂を上ってストラに近づいた。
「面白味のないやつだねえ……」
肩をすくめて、オネランノタルも続く。
「聖下、いかがいたしましたか?」
ストラが、ぴたりと動きを止めた。
その指先が、近くに迫る山間の中腹を指している。
また、視線もそこだった。
「あそこに、何か?」
「掘れば命の泉わくーーううううーーーう~~うう」
「?」
ストラが首を小さく振りながら、いきなり妙な抑揚でそう云い(謡い)、ルートヴァンは眉をひそめた。
「え、掘る? 掘るのですか? 地面を?」
「うん」
「わく? と云うと、地下水でも?」
「温泉だよ」
「おん……せん」
おんせんってなんだっけ……と、思っていたが、何かの書物で読んだのを思い出す。




