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第2章「はきだめ」 4-4 アタマがグルグル

 「な、なんだ? あいつは……」


 物陰の二人も動揺。さらに戸惑ったのは、立ちふさがった三人組だ。思わず、これからペートリュー達を助けに出てくるであろうフィッシャルデアの交渉人二人を眼で追った。


 「ばか……! こっち見んな……!」

 あわてて、建物の陰に身を隠す。思わぬ想定外に、三人組は、

 「な、な、な、なんでえ、手前てめえ!」

 「ひっこんでろ!」

 「ケガすっぞ!!」

 などと、アドリヴで云うのが精一杯だ。


 「だあからあ~、お嬢さん方相手に、そんな恐ー~いカオですごんだって、なー~んにも出てきませんよ……さ、ささ、ここは私が……これで、ひとつ……穏便に」


 シュベールがジャケットの裏ポケットから銀貨を三枚、出し、それぞれ三人に与えた。つい、いつものクセでそれを受け取って、一人などは正直に顔を緩め、そそくさと自らのポケットへ入れる。


 「……って、手前てめえは関係ねえんだ!! すっこんでろよ!!」


 キッチリ受け取ってから、真ん中のリーダー格が凄んだ。思わず、フューヴァが笑ってしまう。


 「なにがおかしいんだ、このアマ!!」


 だんだん自分たちの任務も忘れ、頭に血が登ってくる。隠れていたフィッシャルデアの交渉人たちが渋い顔となり、こっそりと物陰より顔を出しては懸命に目配せしたが、こういう時にはまったく見ていない。


 「だめだ、出直しだ……」

 「あいつら、どうするんです?」

 「ほっとけ……」

 「口を割るかも?」

 「しょうがねえ。それに、あの御大尽を知らねえんじゃ、どうしようもねえ」

 「有名なんですか?」

 「有名も何も……命あっての物種だぜ」

 「へえ……?」

 もう、アニキが歩きだしたので、子分もその後ろに続く。


 見捨てられたとも知らず、三人はますますシュベールにいきり立っていた。

 とにかく、まずはこのエエカッコシイの優男を追っ払わなくてはならないと考え、

 「アンタ、もしかしてレーハー界隈じゃ有名な旦那さんかい!?」


 「おやおや、ボクの事知ってるのかなあ? じゃあ、話は早い・・・・や。さ、さ、それを受け取って、お嬢さん方を開放してあげてね」


 あくまでニコニコを崩さぬシュベールに、だんだん三人も調子に乗ってくる。


 「旦那あ、こんなんもんじゃないでしょう。いつも、レーハーに落としてるカネはさあ。これはないんじゃないの~?」


 「…………」


 シュベール、笑顔のまま急に黙り、目を細めた。その針先のような眼の光に殺意を読み取ることができる者は、フューヴァも含めてこの場に誰もいなかった。


 「……あ、まあまあまあ……そうだねえ~。じゃ、ちょっと……こっちに来てもらって……話をしようか。その代わり、こちらのお嬢さん方は、行ってもらってもいいかなあ?」


 「そういうわけにはいかねえんだ、残念ながらな。おい、見張ってろや」


 そう云って、一人を残して、二人がシュベールを小突きながら無理やり路地へ連れこむ。


 「ちょっとちょっと……話がちが……落ち着いて……」

 フューヴァがシュベールを横目で見送り、残された一人に対峙して前に出た。


 後ろでは、ペートリューが何の魔法を使おうか、アタマがグルグルになっていた。ペートリューは魔法そのものはそこそこ・・・・の腕前だが、どのシチュエーションでどういう魔法を使えば最適解なのか……それがまったく分からない。授業でも実地テストでも、最後まで今は亡き魔術師ランゼが及第点をくれなかった。タッソに派遣されたのも、あくまで補佐及び実地研修扱いだったのだ。


 (えーとえーとえーと……閃光の目つぶし魔法……だめだまだ明るいたぶん効果ない……えーと、炎の矢……ダメダメ近すぎてフューヴァさんをまきこむ……そうだ、いまこそ声色こわいろの腹話術魔法……誰の声で、何を云えばいいんだろ……!?)


 およそ、こんな調子である。

 と、

 「おい、どけや」


 やおら、前に出たフューヴァがドスを効かした声で眉間に皺を寄せ、背の高く若いチンピラを下から睨みつけた。


 「ああ!?」

 「聴こえねえのか、どけっつってんだよ」

 若いチンピラはたちまち頭に血が昇り、

 「なに云ってんだこのドブス……!!」

 「ああぁ!? んだぁ!?」

 「客もロクに寄りつかねえ貧相なレーハーのドブスが、ナニ云ってんだってんだ!!」

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