第11章「ふゆのたび」 1-10 そっちに反応
ルートヴァンがストラの独り言を遮って、一同を舐めるように杖を振り、村人らへそう叫んだ。しかし、
「…………」
ハインを含めて、みな呆然として立ちすくんでいた。
「ダメだなあ、ルーテルさん、こうやるんだぜ」
フューヴァが痛む足を気にしつつ椅子から立ち上がり、口を曲げるルートヴァンに支えてもらいながら、
「ええーい控えい控えい、控えい! 控えおろうーーーッッ! いいかてめえら、このもんどころが眼にはいらねえか!!!!!!」
タケマ=ミヅカ直伝の口上を、久しぶりに披露した。
が、
「あ、やべっ……メダルがねえや」
懐をまさぐって、しまったという顔になる。
「そうだ、重てえから、ストラさんの魔法の倉庫にしまっちまったんだ。おい、プランタンタン……」
「あっしも同じでやんす」
「おいペートリュー、ペートリュー!!」
ペートリューはまったく我関せずで、明後日のほうを向いてガフ=シュ=インの乳酒を水筒から手酌で飲んでいたが、ついに底をついたらしく、
「あの……オネランノタルさん……」
「おい、ペートリュー! 酒なんかあとでいいだろ! タケマズカさんのメダルをよこせよ! 早く!」
「いいわけないじゃないですかあああああああああああああああああああ!!!!!!」
いきなりペートリューが眼を向いてそう叫んだので、村人達はすくみあがり、オネランノタルが堪えきれずに噴き出して後ろを向き、声を殺して笑い始めた。
だが、フューヴァも負けていない。
「なにを、このやろう! 時と場合をわきまえやがれ!!」
「私には関係ありません」
「やい、オネランノタル! こんなやつに、酒なんかやらなくていいからな!」
「どうしてそういうこと云うんですかあああああああああ!?!?!?!?」
「いいから、先にメダルだって云ってんだろ!!」
「せっかくタケマ=ミヅカさんがそれぞれ3つメダルをくれたのに、自分のを勝手にストラさんの倉庫にしまっちゃって、出せなくなってるのはフューヴァさんやプランタンタンさんの責任じゃないですか!!」
「こう云う時だけ、よく口がまわるな、おい!!」
「そんな嫌味を云っても、お酒が先ですから」
「こいつ……!!」
プランタンタンがルートヴァンのローブの裾を引っ張り、ルートヴァンが嘆息まじりに、
「まあまあ、2人とも……やめないか。見ろ、村の人たちも呆れ果ててるよ」
もう口上どころではなくなり、興醒めしたフューヴァが舌を打って、どっかと椅子に座りこんだ。
「クソが、もう、魔王でも勇者でも遭難者でもなんでもいいぜ! とにかく、少し助けてくれよ! 金なら払うし、何か相談ごとがあったら、こちらの魔法使いは、かのヴィヒヴァルンの大公さまだぜ!」
フューヴァがやけくそ気味にハインに向かって吐き捨てるように云うと、
「ヴィヒヴァルンの大公様だと!?」
なんと、そっちに反応するも者がいるとは……という表情で、声の主をルートヴァンやフューヴァが見やった。
年のころ30がらみの、働き盛りの男性だった。
「きみは、ヴィヒヴァルンのエルンスト大公ルートヴァンを知っているのかい?」
ペートリューにガフ=シュ=インの酒瓶を出してやったオネランノタルが、まだ半笑いで、男性に向かって暗黒の奥からそう云った。
男性は不気味なオネランノタルに怯みながらも、
「あ、は、はい! ……噂は、ヴォルセンツクで聞いたことが……」
ヴォルセンツクとは、ノロマンドル公国の首都である。男性は、所用で公都に行ったことがあり、しかも魔術師に関するうわさを仕入れることができる、村でも特別な人物であることを意味した。
「ふうん……どんな噂だ?」
面白そうに、ルートヴァンが尋ねた。
「ええ、はい……帝国を代表する魔術師にして国王の嫡孫……というのは……。ノロマンドルからも、ヴィヒヴァルンのフィ……山の魔王というのを退治しに、勇者様がよく行ってらっしゃるという。し、しかし、誰ひとりとして、退治できたものはいないというじゃないですか」




