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第11章「ふゆのたび」 1-6 帝国内は転送魔術禁止

 フューヴァに続き、プランタンタンとペートリューも無言で歩き出す。既に、フューヴァのためにストラが照明代わりのプラズマ球電を浮遊させ、4人の頭上を照らしていた。


 ルートヴァンがオネランノタルとピオラに顎でついて来るよう指示してその後ろに続き、最後を、自らも高濃度魔力のベールで包んで漆黒の塊となったオネランノタルと、少し離れて殿しんがりを護りつつピオラが歩いた。


 (ふーー~~ーん、あれが魔力を使わないストラ氏の魔法か……戦闘以外でも、ホントに魔力を使わないで、あんな明るい光の球を出せるんだ……ふっしぎー~ー~!)


 オネランノタル、心底感心して、闇のヴェールの奥より4つの眼でストラのプラズマ球電をみつめる。



 そこから一行は、しばらく石ころだらけの山道やなだらかな丘陵、尾根を越えて歩いた。相変わらず山脈の向こう側に、ひっきりなしに大小の流星が落ちていたが、心なしか数が減っているようにも思えた。


 何度めかの休憩時間に、岩の上に座っていたフューヴァが痛そうに足首をおさえていたので、ルートヴァンが、


 「フューちゃん、大丈夫かい? ひねったのか?」


 「大丈夫だぜ。でもルーテルさん、あの転送の魔法で、一気に村までいけねえのかよ?」


 ルートヴァンは、申し訳なさそうに顔をゆがめた。


 「それなんだけど、3つの藩王国を除く神聖帝国内は、転送魔術は使用禁止なんだ」


 「そうなのかよ!?」

 初めて知ったので、フューヴァが驚いた。


 「それで、念のために人間じゃない私が、転送術で山脈を越えたのさ。魔族は、そんな帝国の掟の対象外だからね」


 「じゃ、オネランの旦那の術でひとっ飛びしたらいいでやんす」

 何気ないプランタンタンの提案に、


 「それが、世の中そううまくできていないのさ。本来の神聖帝国内である、藩王国を除いた通称『内地』は、タケミナカトル大明神様の強力な結界内だから……転送法は、かなりの魔力消費量になる。ストラ氏はもちろん、ピオラや大公はまだいいとして、君たちには負担が大きすぎるよ」


 「さっきは、平気だったでやんす」

 「平気じゃあないよ」


 暗黒のフードの奥でオネランノタルが笑ったが、真っ黒なのでよくわからなかった。


 「あの1回が限度だよ。しばらくはね。来月くらいに、また使えるかもね?」

 「はあ……」

 意味が分からず、プランタンタンが半眼で前歯を見せ、鼻をピスピスと鳴らした。

 「ペートリュー、説明してあげなよ」


 オネランノタルがやおらそう云い、ストラの近くにヤンキーみたいに座りこんでなけなしの酒をあおっているペートリュー、


 「帝国内は、隅から隅まで大魔神メシャルナーの強大な魔力で支えられていますから……そういう掟とか……国境を越えての魔術移動は、各国の安全保障上禁止されているというのは名目でして……大魔神の魔力の網にひっかかって、魔法原理上ムリなんですよ。それを強引に行うには、かなり強力な魔力の使用が必要で、私たちではその負荷に耐えられず、魔力中毒になる可能性が……」


 ルートヴァンとオネランノタルが、満足げにうなずいた。

 「やっぱり、意味が分からねえでやんす」


 「意味なんて、どうだっていいんだよ! ダメなものはダメなのさ。アタシが、しっかり歩けばそれでいいんだ」


 フューヴァが、そう云って腰かけていた岩から立ったが、激痛に顔をしかめた。

 「せめて、痛み止めの術を……」


 ルートヴァンがそう云い、回復系の術をかける。一気に……というわけにはゆかなかったが、かなり楽になったので、フューヴァも破顔した。


 「オネランの旦那は、こういうのはできるんでやんすか?」

 何気なくプランタンタンが質問したが、


 「魔族の魔力と、人間やエルフの使う魔力は、根本からが違うからね……どんな副作用・・・があっても責任を取らなくていいのなら、いくらでも魔力を使ってあげるよ」


 「やめたほうがいいですよ」

 即座にペートリューがそう云って、澱んだ眼で酒をあおる。

 ルートヴァンも、片眉を上げて肩をすくめた。


 「大丈夫だって。ルーテルさんのおかげで、歩けるようになったからよ」

 フューヴァがそう云って立ち上がり、ゆっくりと歩き始めた。

 「無理はするんじゃないよ、フューちゃん。なあに、急ぐ旅じゃあない……」


 と、云いつつ、ルートヴァンはピンと来るものがあり、魔術の思考行使で、そこらじゅうの葉を落とした立ち木や枯れ木を裁断して集めると、背もたれ付きの椅子を組み上げた。


 「フューちゃん、座りなよ」

 「おい、ルーテルさん、まさか」

 「その、まさかさ」

 2人には、御馴染みのものだ。

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