第10章「彼方の閃光と星々の血の喜び」 2-EP-2 残り4人
「まずは、春を待って……この冬の内に、飢餓で他国を弱らせ……ヴィヒヴァルンへ宣戦布告したガフ=シュ=インの味方をする国へ、布告を理由に侵攻します!」
「味方ということにして……の間違いだろう」
老王がまた笑う。
「何でも良いのですよ。名目さえあれば!」
「その通りだ」
「同時に、残りの魔王を、我々でも探索せねばなりません! 殿下たちだけでは、とうてい不可能」
「魔王が1人なら、簡単なのにな」
「世界は、そう都合よくできておりませんよ!」
「まったくだ……」
ヴァルベゲルが、ヴィヒヴァルンの魔法魔術文明の粋である巨大な板ガラスの窓を眩しそうに見やって、小さくつぶやいた。
「情報を整理しますと、伝説の8人の魔王の内、帝国内に5人、帝国の外、世界のどこかに3人いるとされています! そのうち、盟約をもって我らで囲っていたレミンハウエルをストラが倒し、新たな魔王である異次元魔王に。そして居場所を掴んでいた3人、ゴルダーイ、ロンボーン、リノ=メリカ=ジントをストラが倒した!」
「残りは、帝国の内に2人と、外……世界のどこかに2人か……」
「いかさま!」
「しかし、タケマ=ミヅカが大昔にそう云っていただけで、本当にそうかどうかは分からん」
「ですが……」
「いまは、それしか信じられるものがない……と」
「そうなります!」
「ふうむ……」
ヴァルベゲルが、軽く顔をしかめた。
「陛下、冬の内に、最低でも1人は次の魔王に関する情報を殿下にお伝えせねば……」
「確かに」
「ここは、魔術王国の情報収集力が問われますぞ!」
「分かっている」
ヴァルベゲルが目をつむって、しばし瞑想した。
「……しかし……皇帝府の地下書庫に入りこむのは、我らをもってしても至難……。表から閲覧研究申請したところで、皇帝が……いや、チィコーザが許すまい」
「いかさま。時間はかかりましょうが、やはり、そこは搦手で!」
「皇帝府か、チィコーザのしかるべき要人を買収する……もしくは、いっそチィコーザから滅ぼすか」
「両方で参りましょう!」
「両方だと?」
「いさかま!」
「だが、チィコーザは、ウルゲリアから食料をあまり輸入していなかった。あすこはあすこで、南部は帝国有数の穀倉地帯……この冬でも、たいして弱るまい」
「ストラを使うほかは、ないでしょうなあ!」
「魔王退治は、いったん休みか」
「倒す相手が見つからないのであれば、是非もないかと……!」
「そうなるか……そうなるな」
「では、ストラにチィコーザを攻めさせ……我らは……」
「チィコーザを後回しにするのなら、ホルストンだろうな」
「いかさま!」
「ゲーデル山脈の向こう側を押さえれば、帝国西部への足掛かりとなろう」
「こうなると、南……フランベルツからマンシューアルにかけて、容易に動けなくなっているのは僥倖!」
「フフ……ストラ様様よ。あすこは、いまそれどころではない」
「まったくで御座りまする! ストラが異界よりこの世界に流れ着いて……しかも、リーストーンあたりで目覚めたというのは、本当に幸運で御座りました!」
「そうだ、な……」
ヴァルベゲルが、ふと、急に曇ってきた外へ眼をやった。
シラールも、王の視線につられて、振り返って外を見やる。
雪が、降ってきていた。




