第10章「彼方の閃光と星々の血の喜び」 2-6-17 脱出、ガフ=シュ=イン
ペートリューが立ち上がり、忽然と現れたストラを迎えた。そして、ストラの帰還を知らせに、ルートヴァン達の元に小走りで駆け寄った。 が、酔っぱらっていたので、途中で膝から倒れ、地面に突っ伏した。
「なあにやってるんでやんすか、ペートリューさん!」
いつも通り、あきれ果てた声でプランタンタンが叫んだ。
ストラは再びプログラム修復モードに入る前に、チラッと足元へ目をやった。
(こんなところに、シンバルベリル)
すかさず、余剰エネルギー回収フィールドを展開。
地面に転がるシンバルベリルが、無色透明となった。
「聖下、御無事で御戻りに!」
ペートリューを見やったルートヴァンがストラを発見し、五体投地でもする勢いで駆け寄るや片膝をつき頭を垂れた。
「敵の魔王を、御倒しに!?」
「…………」
だが、ストラはもう、当該世界待機潜伏モード自律行動用自我プログラムを圧縮し、サブ自我状態に入っていた。今回、わりと大量のエネルギー回復に成功しており、それをコントロールしつつ、プログラム修復を行う。あと、1か月から数か月はかかると推測されたし、今回のように途中で戦闘モードを一時的かつ強制的に立ち上げると、膨大なバグ処理が必要になって、さらに遅れるだろう。
「あー……と」
恐る恐る面を上げたルートヴァンが、またいつにも増してぼー~ーっとしているストラを見やって、ひきつった笑みを浮かべた。
「まだしばらくは、そんな状態だろうね」
立ちあがって振り返ると、オネランノタルとピオラがいた。
ルートヴァンは目ざとく、オネランノタルの額に埋まるシンバルベリルが1つから4つ……しかも、そのうち3つは赫赫と光っている……を見つけたが、
(フ……あまり欲張ると、その身を滅ぼしますぞ……オネランノタル殿……)
忠告する義理も義務もないので、黙っていた。すました顔で、
「オネランノタル殿も御無事で」
胸に手を当てて軽く会釈をする。
「もちろん御無事だよ。で、まだまだ星は落ちてくる。どこに逃げるんだい?」
「とりあえず、南に。真南に飛べば、ノロマンドルの北方辺境あたりに着くかと」
「じゃあ、とっとと行こう。まず脱出して、そこで今後の作戦会議だよ」
「ですね」
「おい、ルーテルさん、キレット達はどうするんだよ?」
フューヴァがそう云い、ルートヴァン、
「別行動で脱出してもらうさ。と、云うより、もう自己判断で動いてるんじゃないか? ついでに、キレット達はチィコーザに潜入して、内情を探ってもらう。案内人もいることだしな。ま、それも、後で連絡をつける」
「私が、みんなを運ぶよ。それでいいんだろ? 大公」
そう云って笑いかけるオネランノタルに、ルートヴァン、
「御気遣い、痛み入ります」
不敵な笑みでそう答えた。
フューヴァやプランタンタンは何のことか分からなかったが、なんでもいい。
「また、でっけえ星が落ちてきたでやんす!」
プランタンタンが、超流星群の軌跡で光る天を指さして叫んだ。
直径20メートルはあろう、特大の隕石が煙と火に包まれ、一直線に迫ってきていた。おそらく、王都を含めてこのイン=ブィール平原のほぼ全体が巨大クレーターになるだろう。
「じゃ、行くよ!」
オネランノタルが、一行を強力な魔力で包む。
「南は、あっつそうだなあ」
「これから冬だから、しばらくは大丈夫だよ!」
ピオラのぼやきを無視して、巨大隕石が凍てつく直前の北の大地を穿つ寸前に、7人が長距離転送でガフ=シュ=インを後にした。
「魔王の御宝が、ぜんぶぶっとんじまったでやんすうううううう~~~~!!!!」
猛烈な高熱衝撃波と巨大きのこ雲を眼下に、プランタンタンの叫びが虚しく虚空に響く。




