第10章「彼方の閃光と星々の血の喜び」 2-6-16 星隕の魔王の最期
ルートヴァンとペートリューは無事にフューヴァ、プランタンタンと合流し、まずここまで脱出したのだった。
が、ルートヴァンもストラと連絡がとれないでいた。ストラの分体でもある羽飾りも、王宮を破壊した攻撃でエネルギーを使い果たしたのか、消失していた。
「なんとも云えないけど……聖下と敵の魔王が王都上空を飛び交っているような状況は、既に終わったようだよ……」
「……ってえことは、アレでやんすか。ストラの旦那は、勝ったってことで?」
「そうだと良いのだけれどね」
ルートヴァン、ストラの心配よりもいっこうに収まる気配のない流星と隕石群を気にして、燃え上がる王都より夜空を見上げるのに忙しい。
そうなるとフューヴァとプランタンタンも、首が痛くなるほど空を見上げて、直撃する隕石が無いか上空に注意を払う。もっともあったところで、2人には大声で喚いてルートヴァンに知らせることぐらいしかできないのだが。
そんな3人とは少し離れて、ペートリューは我関せずで冷たい地面に座りこみ、オネランノタルが用意した家長牛の乳酒を痛飲している。王都の空き家で、あれだけ酒を飲んだ後なのだが……。
暗闇にまぎれ、その足元に近づく生き物がいた。
触覚を変化させてシンバルベリルの光を隠し、風下から獲物を狙う毒蟲がごとく接近する、リノ=メリカ=ジントだ。
(むうっ……こっ、こいつ、な、なんという潜在魔力だ……! これが男のガキなら、神の子に申し分無い……いやっ、これまでで最高の神の子になったものを……!!)
そう思いつつ、慎重に周囲に注意を払う。ここで、失敗するわけにはゆかない。
ふと、リノ=メリカ=ジントが、少し離れたところで天を仰ぐ3人組を発見した。
(待てッ……! やんぬるかな!! 向こうにいる魔法使い……あ、あいつは、まさか……異次元魔王の手下か!! 王宮を破壊しやがった……おぉのぉれェエ……!!)
ギリギリと歯ぎしりしたが、こんな状態では勝てるはずもない。
また、たとえペートリューへの寄生に成功したとしても、少年ではないため、使える魔力はかなり限定される。
(やはりここは、逃げるが勝ちィイ!! それも、一瞬のうちに、風のように逃げ去るのだ! それくらいなら、やってみせるぞ……!!)
幸い、ストラはまだ王都にいるようだ。
異次元魔王が合流する前に、素早く決行せねば。
足首を交差しつつひざを曲げた体育座りペートリューの足元にジリジリと近づき、リノ=メリカ=ジントは息をひそめた。
ペートリューはまったく気づかずに、左手で膝を抱え、右手の杯をチビチビと傾けている。杯がカラになったら、水筒から酒を注ぐ。
(……こんな時に、隕石も王都も気にせず、何を飲んどるんだ、こいつは……?)
ここにきてリノ=メリカ=ジント、状況的にペートリューのヤバさに気づいたが、
(か、かまうものか!!)
2メートルほどまで近づくと、一気に走り寄った。
このまま至近距離からとびかかり、延髄に尾部から出す針を突き刺して、まず物理的に融合する。そうして毒針から魔毒を流しこんで、続いて霊力的に潜在魔力を吸収。それを触媒とし、シンバルベリルの魔力を引き出す。
「いただきだ!!」
思わず声に出したが、その瞬間には、ペートリューの無意識の潜在魔力行使で、リノ=メリカ=ジントは粉微塵にすりつぶされていた。
「?」
誰かの声がしたような気がしたペートリュー、周囲を見渡したが、少し離れたところで騒ぐプランタンタンとフューヴァの声しか聞こえなかった。
すぐ近くに、真っ赤なシンバルベリルがポトリと落ちたが、もちろんそれにも気づかない。
「ただいま」
「あ、ストラさん」




