第10章「彼方の閃光と星々の血の喜び」 2-6-15 潜在魔力の高い人間
とたん、額に埋まる茜色の小さなシンバルベリルの上に、いま飲みこんだばかりの真っ赤なシンバルベリルが、黄色い地肌の肉を押しのけて出現する。
「番人よお、なにやってんだあ? とっとと逃げるぞお!」
近くで、ドシャドシャと雹のように降ってくる隕石や隕石の破片を気にしながら、ピオラが眉をひそめてそう云った。
「大明神サマの戦いに巻きこまれたら、どうするんだあ?」
「リノ=メリカ=ジントがこんな調子じゃ、なんともないよ! まだまだ拾うよ! ホラ、ピオラ、行こう、行こうってば!」
「何を拾ってんだあ?」
「いいから!」
オネランノタル、上空にまだ舞う小さな赤い光を目ざとく察知し、短距離転送をかける。
他の3体は、同じことを考えて、王都の上空を大きく回っていた。
ストラがそのまま王都に落ちた5体を追って降下したのを認め、
(よし! 我は運がいい……探せ、探せ!)
(潜在魔力の高い人間を探せえ!)
(もはや少年でなくとも……いや、ガキでなくとも良いィい! 人間……とにかく人間に憑り依いて、少しでも魔力を使える状態にしなくてはァアアア!!!!)
3体は、まだなんとか使える些少の魔力と身体能力で、頭部や尾部から触覚を伸ばした。尾部の触覚は長いひも状で、何本も吹き流しのように風に伸びた。頭部の触覚は2本伸び、櫛状に広がった。まるで、メスのフェロモンを探すオスの蛾のように、風を裂いて潜在魔力のにおいを嗅いだ。
だが……。
3体のうち1体は、やはり爆発して砕けた隕鉄の破片の直撃を受け、無常にも悲鳴すらなく熱と衝撃で全身が木端微塵に爆散した。
シンバルベリルだけが細く淡い赤い軌跡を描いて草原に落ち、高く跳ね返った。
それを、オネランノタルが両手でキャッチした。
「2つめェ!」
すかさず口に入れ、ゴクリと喉を鳴らす。
たちまち、額で縦に2つ並ぶシンバルベリルの向かって右側に、浮かび上がった。
オネランノタルが嬉しげ、かつ狂気的に微笑んで、カメレオンめいてバラバラに動く四眼で残るシンバルベリルを追う。
なお、シンバルベリル自体は、自ら魔力を放出しない。使用者が使用しない限り、本当にただの美しい宝石にしか見えない。
したがって、リノ=メリカ=ジントの今の状態では、魔力を追えない。目視で追うしかない。
なおストラは、自らの探知方式で「シンバルベリル反応」を定義できたので、その反応を追うことができた。ただし、生体内にシンバルベリルを隠されると、追えないことが分かっている。理由は不明。
オネランノタル、懸命に流星群に光る空を見上げていたが、
「チックショ! 1つ、見失ったよ!」
せめて残る1個はゲットしようと、自ら空中に飛んだ。
元魔王とはいえ、魔力の使えないチンケな魔蟲など、もはや敵ではない。獲物だった。
空中のセミをカラスが捕らえるように、黒い影が急速に接近して、ゆっくりと降下する1体を両手で鷲掴みにする。そのまま飛びながら、リノ=メリカ=ジントが何か云う前にグチャグチャに握りつぶした。魔力中枢器官を破壊され、リノ=メリカ=ジントが塵と化して風に乗って消え、オネランノタルは残ったシンバルベリルを頂いた。
「儲け儲け……ストラ氏につき従って、本当によかったあ! ウッヒヒヒヒ!」
宝石を鑑定するように指でつまんだシンバルベリルを上の右目に近づけて無邪気に破顔し、オネランノタルがピオラに向かって降下した。
他の自分が全て殺され、リノ=メリカ=ジントはもう自分だけになったことにも気づかずに……最後の1体が、無事に着地して暗闇の中を走った。
(近い……近いぞ……かなりの潜在魔力だ……! ……ガキでは無いようだが……もはや、なんでもいい!)
場所は、王都近郊の草原……というほかはなく、赤々と炎上する王都の街並みを遠くに見やって、距離としては3キロほどというところだった。
「ルーテルさん、こんな近くで大丈夫かよ? ストラさんが全力を出すと、ここも危ねえんじゃねえの?」
フューヴァが、王都を見やって心配げにつぶやいた。
ルートヴァンは隕石の直撃に注意をはらいつつ、
「聖下から、連絡がないんだ。もっと離れていいのかどうか、判断がね」
「そうは云っても、星もまだまだ落っこちてきてることでやんすし、もう少し離れてえでやんす」
プランタンタンは、王都と上空を交互に見やって小動物みたいに細かく呼吸し、ソワソワしている。




