第10章「彼方の閃光と星々の血の喜び」 2-6-14 残り4体
(なんだ……星が落ちて、ぶつかっている衝撃か……!?)
さすがに、不安になる。隕石攻撃も、もはや手のつけようがない。王宮ごと吹き飛ばす大きさの隕石が落ちてきたら、もうだめだ。
(ままよ……そうなれば、潔く死ぬだけだ……! 他の誰かが生き残っておれば、まだ復活はできる……!)
そう思いなおし、また進む。
だが、
(……!?)
物音と衝撃が、すさまじい勢いで、確実に近づいてくるではないか。
(……ま、まさ、まさかァアアアアあ……!!!!)
ストラが、素手で猛烈に瓦礫を撤去し、穴を掘ってリノ=メリカ=ジントに迫っていた。
「ななななんだ、あのバケモノめが!!!! 何を考えていやがるんだあああああ!!!!」
慌てふためいて、闇の中に赤い光を照らしつけながら、リノ=メリカ=ジントが狭い隙間を逃げに逃げまどう。
ストラが素手なのは、理由がある。
衝撃破や熱攻撃で瓦礫を吹っ飛ばすのは簡単だが、リノ=メリカ=ジントまで吹っ飛ばしては、また(シンバルベリルを)探すのが面倒だからだ。
巨大な石材から土砂のように砕けた部材まで、目に見えぬほど高速で撤去し、掘り進む。リノ=メリカ=ジントも小動物めいて隙間から隙間を逃げこむが、
「……ギぃいいャアアアあああああ!!」
また、あの苦痛に捕らえられた。
ストラの余剰エネルギー回収フィールドが、瓦礫の山をこえて接触したのだ。
「アッ! あああああーーーーッッ!! アッぐ! ぐあああーーーッ!! ガッガッガッ!! ガッグッゾオオオオおお!! こっこっ、こここここのような……このような鬼畜の所業ををををおおお!!!! なぜ、なぜだ!! 平和を愛する! 単に平和に暮らしていただけの! この我を! 何の罪もない……なんんの罪もないいいのにいい……!! なぜ……なあああぜえええええこ" の" よ" う" な" 眼" に" い" い" い" い" い" い" い" い" …………」
叫びながら、リノ=メリカ=ジントが分解されてしまう。
大豆みたいな大きさのシンバルベリルだけが残り、瓦礫の隙間に転がり落ちた。
落ちながら見る間に赤い光が失われ、ストラのフィールド効果範囲外に至るころには、無色透明となって、石材にぶつかって砕けて散った。
こうして、15体のリノ=メリカ=ジントのうち、ストラにその魔力に秘められた未知のエネルギーを吸収された個体は、11体。
ストラは、11個分の赤色シンバルベリルのエネルギー……TNT換算では、もう正確な計算は不可能ながら、数テラトンに相当と推察……を吸収できた。総量的には、小数点2~3桁に近づいただろう。準戦闘モード使用許可時間も、大幅に増えると推測できる。
もっとも、プログラム修復が完全に終了すれば……だが。
残りの4体は、けっきょくストラは追跡できなかった。
4体はたまたま羽を生やす判断をし、それがうまく作用した。
王都に落ちた5体は、羽を生やせなかったのではなく、王都に潜伏したほうが逃げる機会があると判断しただけだった。
4体はしかし、高い飛翔能力を有したわけではなく、滑空がやっとだった。物理的に身体が大きいし、羽を動かす筋肉もほぼ無い。王都上空で風に乗った時点で、まだ少々の魔力が使えたので、かろうじて魔力で風を掴み、飛翔していると云って良かった。
4体に、意思の疎通ができる力はすでになく、各自の幸運を祈って、てんでバラバラに逃げるだけだった。
1体は強風に乗って、凄い速度で王都上空からはずれ、草原に出た。
(やったぞ!! 我は運がいい! このまま……)
その1体を、小石大の隕石が貫いた。
「げェえッ……!!」
もう、こんな隕石も防げぬほど、魔力の使用ができなくなっている。
体液をぶちまけながら真っ二つとなって墜落し、高度数百メートルから硬い地面に落ちた衝撃で身体が潰れた。上半身というか、頭の方の部分がなんとか蠢いていたが、やがて動かなくなった。魔力中枢器官を貫かれたためブズブズと身体が崩れ、恐るべき魔力を秘めたシンバルベリルだけが枯草の草原に転がった。この危険な赤い宝石は、結局のところ誰にも拾われずに、王都の廃墟の近くで転がっていたが、やがて風に飛ばされた土砂に埋もれ、半永久的に失われることになる。
ところを……。
「ウッヒッヒヒ! いいものみっけ!」
オネランノタルがそれを拾って、ニンマリと笑いながら、薬を飲むか、豆でも食べるように口中に放り入れるや、飲みこんでしまった。




